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「お前はまたナニ突拍子もないこと言い出してんの」 呆気に取られて何も言えない僕に代わり、月城さんが呆れ半分に聞いてくれた。 四季さんはジャケットの胸ポケットに手を入れ、ガサッと何かを取り出した。 見覚えのある白い封筒に、サァっと血の気が引く。 「な…んで、それ……」 それは、僕があの日握りしめていた遺書。 「救急車に乗る時、近くに落ちてたから君のかなって拾っといた。 で、拾ったはいいけど、本人のものか、わからないし悪いけど中、確認した」 アレを読まれたかと思うと、ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。 なんて言い訳していいのか分からず言葉が出てこない。 大丈夫。 遺体が万が一にも見つかってしまった場合、育ててくれた家に迷惑をかけないような書き方だったはずだ。 それでも、もしどこか福祉センターとか機関に話されたらあの人達の耳に入ってしまう。 うまく言い訳を考えなきゃいけないのに、ポンコツの僕の脳はこんな時、フリーズして使い物にならない。 何もかもを見透かすようなハチミツ色の瞳に映され、余計に頭が真っ白になる。 「そういうの勝手に見るなよ。私の指導不足で申し訳ございません、椎名さん」 月城さんが代わりに謝ってくれる。 怒ってなんかないけど、見られてしまったことがショックで、いいえ、の一言さえ言えない。 「ルリ、この子自殺しようとしてる」 そして、とことん空気を読まないこの男は悪びれもなく口を開いた。 月城さんの小さく息を飲む音が聞こえる。 信じられない思いで顔を上げると、顔色一つ変えずに四季さんは「そうでしょ」続けた。 「……あの、えっと……ちが、くて……」 まるで悪さを見つかってしまったような緊張感に、血の気が引いてカタカタと手が震えてしまった。 「別に責めてるわけじゃない。生きてるのって果てしなくめんどくさいよな」 そう言う四季さんの声は、本当に責めてるわけでも同情してるわけでもない空気のように感情のない音だった。 「でも、俺としては恩人が死のうとしてることを知った以上見過ごせないし。 とりあえず、死ぬ気だったなら全部投げ捨てて俺のところにおいでよ」 そんなこと急に言われても。 僕は死にたいんだ。 全部もう終わらせたい。 どうか放っておいて欲しいだけなのに。 「……いや……申し訳ないんですけど……ちょっと………」 「断るなら、仕方ない。警察と福祉センターに連絡する」 「ちょっ」 そんなことされたら、どんな目にあうかわかったもんじゃない。 これ見よがしにスマホを取り出す四季さんの腕を咄嗟を掴んでしまった。 目があった四季さんは見透かすように目を細めた。 「とりあえず一年でいいから、俺のところにおいでよ。 働かなくていいし、家事やれとか言わないから。しばらく休んで何かしたくなったら援助するし、それでもやっぱり死にたいって言うなら、今度は引き留めないからさ」 こんなの、脅迫でしかない。 どうして放っておいてくれないんだろう。 何か言い返したいのに、言葉が喉につっかえたように出てこない。 「どうせ死ぬ予定なんでしょ。じゃあラスト一年時間ちょうだい」 表情がないこの男の、腹の底が見えない。 それでも、断るならやっと疎遠なれたあの人たちともう一度会うかもしれない。 そう思うと、僕に選択肢なんてあるはずもなかった。 「………一年すぎたら、絶対に…………」 僕が死ぬことを放っておいてくれますか。 そう直接的なことを言葉にはできなくて、口籠ってしまう。 それでも四季さんは通じたように薄く微笑んで頷いた。 「よろしくね。椎名瑞稀(シイナ ミズキ)君」

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