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「じゃあ多分、オレとも会う機会増えるよねー。改めまして、よろしくね瑞稀くん」 少し気まずい雰囲気を和らげるように月城さんが笑って僕に右手を差し出して来た。 咄嗟に僕も右手を差し出したけれど、ボロボロであかぎれだらけの汚い手と、真っ白な月城さんの手は対照的すぎて思わず引っ込めそうになるのを、月城さんは両手で包んで上下に軽く振った。 「オレの名前リチェールだけど、仲良い人とかみんなルリって呼ぶから、よかったらそう呼んでね。清十郎は少し何考えてるか分からないとこあるけど、悪いやつではないから。それでも、清十郎に言いにくいこととかなにかあったらなんでも相談してね」 僕の手に触るの嫌だっただろうに。 そんな態度1ミリも出さずに人懐っこい笑顔をむけてくれた。 敬語の時は一人称私だったのに、どうしてこの人自分のことたまに俺って言うんだろう。 日本語教えてくれた人が男の人だったのかな。 「ル、リさん?」 人をニックネームで呼ぶのは初めてで、つい疑問系になってしまった僕の声に、ルリさんは気にした様子もなく笑う。 この人、モテるだろうな。 「気をつけなよ瑞稀。ルリ二面性あるから、そいつの無害そうな笑顔にだまされんな」 ぽちぽちとスマホを弄りながら、四季さんが口を挟んでくる。 正直、この人は苦手だ。 何考えてるか分からないし。 いきなり変なこと言い出してきたし。 イケメンだし。 「オレが厳しいのはお前が全然言うこと聞かないからだろ。ていうか、せ〜じゅ〜ろ〜。今頃ドラマの撮影中のはずのお前がなんでここにいるのかな〜」 四季さんに話しかけるルリさんの顔は笑ってるのになんだか威圧的で怖い。 さっき言ってた二面性ってこれかな。 「監督に話したら帰っていいって。 スケジュールはなんとかするって言ってたよ」 しかし、四季さんは病室に入ってきた時から一切変わらない表情でしれっとしている。 「スケジュールなんとかするのはオレなんだよばかやろう。とにかく今すぐ現場に戻るよ」 「はぁ、怒ってる時のルリ2割り増しで運転下手だからやだなぁ」 「怒らせてるのどこのボウヤかなー?」 面倒くさそうにしながらも、サングラスをかけて立ち上がる。 なんだかんだ、ルリさんには頭が上がらないのかもしれない。 何はともあれ、やっと出ていってくれるのか、とついホッと息をついた。 「瑞稀」 気を抜けたところに、突然名前を呼ばれビクッと顔を上げると、はちみつ色の瞳がサングラスをずらして至近距離で僕を映していた。 「明日退院らしいから午前中に迎えにくる。逃げるなよ」 ……逃げれない状況を作った張本人のくせに。 うんとも、すんとも言わない僕の頭を二回撫でて颯爽と病室を出ていった。

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