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__________ 面会時間が始まってすぐの9時。 現れたのは四季さんではなく、ルリさんだった。 「ごめんねー。清十郎は今日朝から雑誌の取材が入ってて。オレが代わりに来ることになっちゃったー」 人当たりのいい笑顔に思わずホッとする。 むしろ来たのがルリさんで良かった。 いっそ1年間ずっと多忙でいてくれないかな。 「いえ……ルリさんでよかったです」 つい言葉が漏れてしまう。 「あはは。そう言ってもらえたら良かったー。普通オレなんかよりみーんな清十郎とお近づきになりたい人ばっかなんだけどねー」 じゃあ行こっか、と自然に出された手に、思わず戸惑う。 なに? 握るの? 「怪我、まだ痛いんじゃない?オレでよければ支えるよー」 「いえっ!大丈夫です!全然、痛くないので!」 年上とはいえ、女性に支えられるなんて情けない真似できない。 何より、昨日ガサガサな僕の手に触れて、ルリさん自身もう嫌だっただろうに。 とはいえ、大袈裟に断ってしまって、逆に失礼だったかもしれない。 「そっか。無理しないで、ちょっとでも体しんどかったら教えてね」 恐る恐るルリさんを見上げてみても、気にした様子もなく笑っていた。 「……すみません。ありがとうございます」 「ふふ。かしこまらないでいいのに。じゃあ退院手続き1階みたいだから、いこうかー。忘れ物ない?」 「はい」 忘れ物どころか、家を出た時も、持ち物は財布と遺書だけだ。 「合計、89.627円になります」 会計に向かうと、たった数日の入院で目が飛び出るほどの金額を伝えられ息を呑んだ。 どうしよう。 全財産かき集めてもそんなお金ない。 これって食い逃げみたいなのになるのかな。 「あ、はい。カード一括でお願いします。あと領収書ください」 固まる僕の横からルリさんがサラッと金色のカードを差し出す。 え、何でルリさんが。 もしかして僕の反応で手持ちがないこと分かったのかな。 「す、すみません……!必ず返します!」 「ん?いやいや、これ清十郎から預かってるカードだから気にしないでー」 「えっ」 そういえば治療費はこちらでって言ってくれてた気がする。 そんな恩を作る真似したくないのに。 「いえ、必ず返します。本当にすみません!」 病院を出た後も何度も何度も謝って支払うと言うのに、ルリさんはいいのいいのと笑う。 四季さんからそう指示されてるのかもしれないけど、ルリさんではなく四季さんが出してくれてるのだと思うと余計に借りなんて作りたくなかった。 「清十郎が瑞稀くんを引き取るって言い出したんだから。これくらい出して当然だし、毎日大トロ食わせろやーくらい言ってやったらいいんだよー」 「そんなわけには……っ」 「はい、車乗ってー。オレ運転下手っぴだからシートベルトしっかりねー」 「ルリさん…!」 「はーい。この話は終わりでーす」 へらへら、にこにこしながらも、結構この人強情だ。 柔らかい口調とは裏腹にテキパキと僕を助手席に乗せて、甲斐甲斐しくシートベルトまでつけてくれる。 ていうか、僕なんかが助手席になんて乗っていいのかな。 そんなこと聞く間もなく運転席に乗り込んだルリさんが「しゅっぱーつ!」と車を発進させた。

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