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_________ 「………は?何お前。ルリの運転で助手席に座ったの?勇者だね」 スタジオの駐車場で、起きれない僕を見かねてルリさんがシートを倒して休んでていいよって言ってくれたから、その言葉に甘えた。   それから30分後、現れた四季さんは引いたように薄く笑ってこの言葉を放った。 「あ、すみませ……」 「そのままでいいよ」 不本意とはいえ、今日からお世話になる人を出迎えるのに、この体勢はありえない。 慌てて車から降りて一度挨拶をしようとする僕を四季さんが止める。 「車酔いとかって車が止まってもしばらく続くよね。無理しないで寝ときな」 意外にも優しい言葉に思わず目を丸くする。 昨日の強引な態度とはまるで違うものだった。 「いえ……さすがに四季さん差し置いて助手席に座るなんてできません。後ろに移ります」 「え、待って。俺を助手席に座らせようとしてる?」 ひく、と引き攣った苦い笑顔を浮かべる四季さんに、首を傾げる。 普通、ここには親しい人が優先で座るものじゃないんだろうか。 「瑞稀くん、そのまま隣に座ってていいよー。芸能人は基本的に後部座席なんだよー。前の席は窓にスモークかかってないでしょ?」 ルリさんの言葉に納得する。 そっか。そういう事情があるんだ。 「知らずに失礼しました」 素直に謝ると、二人して謝ることじゃないって言葉をかけてくれる。 そして四季さんが言葉を続けた。 「そういうの関係なしに、ルリの運転で助手席とか勘弁って話だから」 「なんだこのやろー。喧嘩売ってんなら買うぞこらー」 無表情でさっきから酷いことを言う四季さんを、ルリが笑顔のまま後ろから軽く腰あたりにパンチする。 仲がいいからこそのやりとりは、どこか微笑ましかった。 「それじゃあそろそろ出発するよー。清十郎、早く乗って」 「うん」 運転席に回り込むルリさんに、返事だけ返すと清十郎は助手席の窓から少し屈んで顔を覗き込んできた。 「もう助手席は懲り懲りでしょ?瑞稀も俺と後ろに座る?」 宝石のように綺麗なハチミツ色の瞳に映されて、思わずドキッとしてしまう。 さすが人気のある芸能人ってだけある。 男でも緊張してしまうほど改めて顔がいい。 「え、と……」 正直、ルリさんの運転は怖いけど、四季さんの隣に座ろうって気分にはなれない。 だからこのままでいいですって断ろうと思うのに上手く言葉が出てこなかった。 「えー!だめだよ。最近誰もオレの運転隣に乗ってくれないんだもん。寂しいじゃん」 「瑞稀が断れないことをいいことに生贄みたいなことするなよ」 ルリさんが代わりに断ってくれても、手に持っていたペットボトルのお茶を飲みながら呆れたように四季さんが嗜める。 「生贄じゃないもん。ねぇ、瑞稀くん?オレとのドライブ楽しいよね?」 僕の右手に抱きつくように止めてきたルリさんのありえない行動にビクッと体を硬らせた。 「へ!?わ、ルリさんダメ!!ダメです!!!!」 「へ?」 何考えてるんだこの人。 女性がそれはダメじゃない? キョトンと首を傾げるルリさんに顔が赤くなってしまう。 言わせないでよ!わかってるくせに! 「む、むね、が……っ!」 胸があたって………え? 抱きつかれた右腕には柔らかい感触はなくて、薄い胸板だけ。 「………ない」 ポロッとこぼれたセリフを慌てて口を押さえて止める。 かなり失礼なことを言ってしまったはずなのに、ルリさんは何も分かっていないようだった。 まって、この人のおかしいと思ってた一人称って、外国人が間違えてるとかそう言うのじゃなくて……。 「ルリさんって女の人じゃないの!?」 本人に正面切ってはさすがに言えず、咄嗟に四季さんに振り返って疑問を投げつけた。 あまりのショックについ声を張ってしまった僕のセリフに、四季さんが飲んでいたお茶をブーーーーーッ!!!と盛大に吹き、顔がお茶まみれ。 あははははははは!!!!と、堰を切ったように笑い出した四季さんの声が響く中、恐る恐る振り返る。 ルリさんは頬を赤くして眉間に皺を寄せながらもなんとか口元だけは引き攣りながら笑顔を作っていた。 「人気の男性俳優に女性マネージャーがつくわけないじゃん。瑞稀くんのおバカちゃん」

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