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四季さんは本当に忙しい人らしく、分刻みのスケジュールで色んなところを回りながらご飯の時間すら惜しんで移動の車内でルリさんの手渡した片手で食べれそうな手作り弁当を食べていた。 マネージャーさんってお弁当も作らなきゃいけないんだ。 大変なお仕事だなぁ。 僕は、四季さんのドラマの撮影中、ルリさんと現場を離れてご飯を食べに出れたけど、多分僕に気を遣ってるだけで普段ならルリさんもご飯の時間とか削ってるのかもしれない。 「あっちこっち振り回してごめんねー、瑞稀くん。次の仕事で今日は終わりだから、そうしたら家に送れるからね」 時間はもう夜の8時だった。 朝イチで迎えたのはその時間じゃなきゃ迎える時間がなかったかららしいけど、これだけ忙しいなら別に住所を教えてくれたら自分でそこに行くのに。 「いえ…こんなに忙しい中、今日は僕のお迎えとか、買い物の時間割いてくれたんですよね。すみません」 「んーん。お買い物はオレも楽しかったよ」 ルリさんは一日中ずっとこの穏やかな笑顔を浮かべていた。 だからもうルリさんに対しては緊張とかなくなったけど、もう少しで四季さんと二人きりになるんだと思うと、ちょっとだけ憂鬱だな。 「ルリ、次の現場さ、中抜けしてもう一個買い物頼みたいんだけど」 そんな恩知らずなことを考えてると、僕とルリさんの会話に何かを思い出したように、ずっと静かだった四季さんが口を開いた。 「うん、なにー?」 「花瓶。この花、うちに持ってくるものだろ?うち花瓶ないけど」 「あ。そっかー。忘れてたー」 あ、僕も忘れてた。 お花もらったことに胸がいっぱいで、枯れちゃうの勿体無いからドライフラワーにしようかなとは思ってたけど。 僕が貰ったお花ってわかってて、それを飾る用の花瓶のこととか考えてくれるんだ。 この人って、無表情で何考えてるか分からないし、失礼なこと言うし、お茶も吹きかけられたけど、ルリさんが言うように悪い人ではないんだろうな。 お金ばっかり使わせて申し訳ない。 「瑞稀くん、どんな花瓶のデザインがいいー?」 「あ、えと…なんでも……」 「て、言うよねー。清十郎はブランドの指定とか、デザインどういうのがいいとかあるー?」 「任せる」 「……生首が口を開けてるとこにぶっ刺すようなファンキーなデザインのやつ買うぞこのやろー」 嫌味のつもりなんだろうけど、逆によくそんなデザイン思いついたよね。 むしろちょっと見てみたい。 思わず笑いが溢れてしまった。 「瑞稀。こいつこーゆー嫌がらせまじでやるタイプだから、ちゃんと自分で選んでおいで」 急に名前を呼ばれてビクッとしてしまう。 振り返ると四季さんと目があって、思わずまた前を向いて目を逸らしてしまった。 「うん、オレはやるよー。やるときはやる男ってかっこいいよね〜」 「ほら、こーゆーやつだから。手荷物何もないんだろ。一個くらい自分で選んだ自分の好きなもの見つけておいで。時間かかっていいから」 顔を背けた僕の態度に何も言わないで、そんなことを言ってくれる四季さんの声は穏やかだ。 何この人。 なんか、胸がギュッとする。 「……え……っと……」 そんなことを言われたことなんてないから、なんて返していいのかわからないでいると、駐車場に到着してしまって、四季さんは車を降りてしまった。 ルリさんと四季さんで現場まで挨拶に行くとすぐルリさんだけ戻ってきた。 「さっきから車で待たせてばっかでごめんねー。じゃあ花瓶買いに行こうか〜」 戻ってきて、柔らかく笑うルリさんに頷くと割とすぐ近くの百貨店についた。 もう夜ってこともあって人は少ない。 「さぁてと、気遣い屋さん、お値段見ずに好きなデザイン選んでみない〜?」 小悪魔みたいな笑顔のルリさんに、ツンツンとほっぺたを指で突かれて顔が赤くなってしまう。 本当にいいのかな。 本当はルリさんから貰った花束を飾る花瓶を自分で選びたかった。 でも、僕はお金持ってないし、どうしてもこれがいいとか口出しをするような真似図々しい気がして出来なかったけど、四季さんの言葉が優しく背中を押してくれるようだった。 「本当に選んでいいんでしょうか……」 恐る恐る口を開くと、ルリさんは少しだけ目を丸くして、それからへにゃっと柔らかく微笑んだ。 「いいに決まってんじゃん」 シャキンと自信満々に四季さんのカードを取り出すルリさんに思わず笑ってしまう。 欲しいものがあると口に出して、嬉しそうにしてもらったのは初めてだ。 ギュッと手を握って顔を上げると、行こうと笑って前を歩くルリさんに続いて店に向かった。 沢山ある花瓶はどれもキラキラ綺麗で、なかなか選べないでいる僕をルリさんは急かすこともなく、どれも綺麗で迷っちゃうねって言ってくれた。 それからたっぷり時間をかけてようやく一つの花瓶を選ぶと、オレもこれが一番いいと思ってたって笑って言ってくれる。 それが嘘か本当かはわからないけど、これでいいんだって言ってもらえた気がして、少し胸がくすぐったかった。

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