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________ 四季さんの本日最後の現場から車を走らせて数十分。 着いた30階を超えた高層マンションを見上げて呆気に取られてると、何食わぬ顔でスタスタと進む二人に慌てて着いていった。 警備員がいる門を通り抜けて、エントランスではコンシェルジュが頭を下げて、やっとエレベーター。 まだ部屋に入ってもいないのに、セキュリティの厳重さや見たこともない高級マンションに目が回ってクラクラしてくる。 31階に止まったエレベーターを降りて、やっと一つの扉の前で二人の足は止まった。 「瑞稀、ぼーっとしてないで。明日からは俺もルリもいないんだから、自分で今の3重セキュリティ解除するんだよ。覚えた?」 「え?あ、はい…」 「怪しいなぁ。まぁ、この部屋だから」 話半分でしか聞いていなかった僕の生返事を見透かすように四季さんは小さく息を吐きながらカードキーでドアを開けた。 玄関からダークブラウンを基調としたゴージャスな造りの玄関に、思わず体が固まる。 僕みたいな入院で2日風呂に入っていない小汚い男が足を踏み入れていいような空間なのだろうか。 「何してんの。早くおいでよ」 ドア閉めれないじゃんと、不思議そうにする四季さんに、すみませんと答えてなんとか一歩足を踏み入れた。 上品なルームフレグランスの香りがなんだか僕の小汚さを浮き彫りにしてくるようでどうにも落ち着かない。 「あぁ、こんな成金丸出しの家、居心地悪いよな」 靴から、スリッパに履き替えながら四季さんが納得したようにつぶやく。 成金なんて、そんなこと思ってない。 ただ、何も持ってない自分が自分が恥ずかしくなっただけで。 「あ、いえ!そんなこと!」 僕の態度が気を遣わせてしまったのだと慌てて、取り繕おうと顔を上げた。 「俺もこの家、すっごく嫌。 でもうちの社長がセキュリティ上ここ以下のマンションは全部承諾してくれなかったんだよね」 な?ルリ、と後半はルリさんを見ていう四季さんの言葉に、ルリさんも何かを思い出しように呆れた笑いをこぼす。 「いつまでもあの階段抜け落ちそうな1Kのアパートに人気俳優住まわせるわけにはいかないだろ。それでストーカー被害減ったんだからいいじゃん」 「へ……」 二人の会話に思わず間抜けな声が出てしまう。 どの角度から見ても王子様な四季さんがその辺のアパートに住んでいたなんて想像も付かない。 「でも31階はないだろ。せめて5階以下にしてくれよ」 「オレに言われても。社長に言ってよ」 「何回も言ってるっての。社長、ルリに甘いじゃん。ルリからも言ってくれよ。俺、高所恐怖症だってのに」 「一応、何回かは伝えてるけど…スター性が削られるからダメなんだって」 高所恐怖症なんだ。 なんだか、似合わない。 ルリさんとのやりとりはまるで駄々をこねる子供とハイハイって嗜めるお母さんみたいなやりとりで、つい気が抜けてしまう。 「すみません。あまりにも豪華なマンションだったから、昨日お風呂に入ってないような小汚い僕が入っていいのか躊躇ってしまって」 「あ、そうなの?入院中って風呂は入れないんだ。でも臭くないし気にすんなよ」 「わあっ!!」 音もなく近付いた綺麗な顔が、スンって僕の首筋あたりで鼻を鳴らして、咄嗟に突き飛ばしてしまった。 何してんのこの人!デリカシーって言葉知らないの!? ……じゃなくて! 「ごめんなさい!つい!!」 突き飛ばしてしまったことを慌てて謝ると、ルリさんがスパンと四季さんの頭をはたいた。 「いた。なんだよ」 「なんだよじゃないよ。おバカ。だからお前はいつまでもデリカシーのない坊やなんだよ。ごめんね瑞稀くん」 「い、いえ。僕も突き飛ばしてごめんなさい」 いいのいいのって笑うルリさんに思わずホッとしてしまう。 四季さんみたいないい匂いの人に匂いを嗅がれたくない。 いや、だれにも嗅がれたくないけどさ。 特にだよ。 なんで叩かれたのかわかっていないように首を傾げながら四季さんとこれから始まる生活に先が思いやられてしまう。

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