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そんな会話をしてるとちょうど玄関からドアの音が開く音が聞こえた。
エントランスのコンシェルジュから来客の報告や、鍵を開けることが面倒でルリには鍵を渡して自分で上がってくるよう伝えている。
寝坊しても確実に起こしてもらえるし。
「おはよー。清十郎、瑞稀くん」
俺と瑞稀だけの静かだった空間に、明るい声が響く。
「おはようございます」
「瑞稀くん。昨日はよく寝れた?」
「はい」
ルリの顔を見て、ほっとしたように瑞稀が顔を緩める。
なんとなく面白くないな。
これからお前はルリより俺といる時間の方が長いんだけど。
「ルリ、このコーヒー瑞稀がわざわざ淹れてくれたんだけど、飲む?」
少しいたずら心が湧いた。
「瑞稀くんがいれたの?じゃあ飲んでみようかな〜」
言うと思ったよこの八方美人め。
俺がどれだけ言っても飲まなかったくせに。
ルリは早速キッチンに向かってドリッパーに入ったコーヒーの残りをカップに注ぎ始めた。
「ルリさんコーヒー苦手って聞きました。棚にはココアもあったからそっち飲むんですよね?ココア、すぐ淹れます」
「ううん。こう言う機会ないと絶対飲まないから一口飲んでみる。それで苦かったらココア追加で淹れてカフェモカにする〜」
「俺が勧めた時点で飲めよ」
「コーヒー嫌いって言ってんだろ。あ。でも同じ豆買って千に飲ませたら美味しいって言ってたよ〜」
「あの人はわかってくれるって思ってた」
「はは。二人味覚合うもんね。瑞稀くんいただきます」
淹れたコーヒーを瑞稀に持ち上げて見せて一口口をつけすぐ「にが!」と口を離した。
お前が笑顔で無理くり飲んでる職場のコーヒーより数倍美味しいっての。
「瑞稀くんが淹れてくれた真心みたいな美味しさはあるけどオレにはちょっと苦いみたい〜。ごめんカフェモカにする〜」
「邪道だなぁ」
「てかそんなに推すならお前もブラックで飲んでみろっての」
「これはカフェオレが1番合うんだよ」
「瑞稀くんもカフェモカにする?数倍美味しくなるよ〜」
「やめろ。瑞稀に変な飲み方教えるな」
「いいじゃん。オレの一口飲んでみて気に入ったなら瑞稀くんのもカフェモカにしようよ。はい、一口どうぞ」
こいつつくづく俺の話聞かないよな。
ルリはカップに少しだけ淹れたコーヒーにココアを足してカフェモカにするとくるくるティースプーンを揺らしながら瑞稀に手渡した。
「え、いえ、僕はいいです…」
「いい判断だ」
遠慮して首を振る瑞稀に今だけはナイスと言いたい。
「僕なんかが口つけていいはずないです。ルリさんが飲み残したならいただきますね」
おいやめろ。
そんなこと言ったら飲ますのこいつが諦めるわけないじゃん。
「え?そんな理由?そんな理由で断るなら口移しで飲ませてやるけどー?」
「だ、だめです!!」
くすくすと揶揄うように笑いながら小さな顔を傾げるルリに、瑞稀はかあっと顔を赤くして椅子から転げ落ちそうになる。
揶揄ってやるなよ。
後で千にチクってやろう。
「ほらそれがダメなら一口飲んでみて。美味しいから」
「ルリさん、誰にでもこう言うことやるんですか?ちょっと心配になります。自分の顔の良さもう少し気をつけた方がいいと思います……」
「え、オレ可愛いー?」
少し拗ねたように言う瑞稀の言葉に、指を頬に当ててわざとらしいぶりっ子ポーズで俺に振り返るルリに冷めた目を向ける。
「俺には悪魔にしか見えない」
俺がそう言うと、瑞稀がそれも分からなくもないと言うような顔を浮かべた。
「ルリさんは同じ男でもドキッてするくらい可愛いです」
「そう?ねぇねぇ可愛いお兄さんからのお願い。これ飲んでみて?」
「……いただきます」
頬を赤くする瑞稀に、ちょっと心配になる。
ルリには既に相手がいるとかそう言うことじゃなくて、こいつだけは好きにならない方がいい。
ていうか、もう昨日の時点で腹黒いところとかわかってるはずなのにな。
後で釘刺しとこ。
「美味しいです。ココア飲んだことないから、びっくりしました」
コーヒー飲んだことないって言ってたからココアも初めてかなと思ってたけど、やっぱそうなんだ。
瑞稀はパッと表情を明るくしてルリを見上げる。
「でしょ〜?よし、瑞稀くんのカフェオレにもココア淹れよーっと」
「僕にはもったいないです!だめです!」
「はいはい。聞こえなーい」
飲みかけの瑞稀のカップにココアを問答無用で追加してどうぞと差し出す。
慌てながらも、瑞稀はどこか嬉しそうだ。
……まぁ、瑞稀が美味しいって思えるならいいけどさ。
「四季さん…」
飲んでいいですか?と尋ねるように困った表情で見上げられたら、いいよって言うしかない。
「美味しいなら好きなように飲みな」
ほっとしたように頷いて、瑞稀は変わり果ててしまったコーヒーに口をつけた。
ルリの顔にどうこう言ってたけど、今の表情がわざとじゃないなら瑞稀も魔性入ってるから気をつけた方がいいと思う。
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