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しっかりドアが閉まって、エレベーターに乗り込むと、カバンに入れておいた封筒をルリに手渡した。 「え……なに。これまだ持ってたの?」 一回して見ていないはずなのに形を覚えていたのか、ルリはそれを受け取らず、微かに顔を顰めた。 「返すわけないじゃん。あいつが自殺しようとしてた証拠なんだから」 返したら、あいつが逃げ出す確率が上がる。 そしたらまた死のうとするんだろう。 でもこれが俺の手元にあるうちは、これを証拠に警察に相談されて、死ぬ前に見つかって、叔母たちに連絡行くリスクを恐れるだろう。 死ぬために準備したこれが、この世に縛り付けるものになるなんて皮肉だよな。 「人の遺書を持ち歩くなんて悪趣味だよ。せめて家のどこかに隠しときな。あの子勝手に家の中探すタイプじゃないじゃん」 「うん。明日からそうする。その前にルリそれちょっと読んでみて」 ルリの大きなエメラルドの瞳が少し見開かれる。 言いたいことはわかる。 ひどいよな。 プライバシーの侵害どころの話じゃない。 でも、多分これは読まなきゃあいつには向き合えないし。 関わりが増えるルリには一緒に知ってほしいものだった。 「……読んだ清十郎が瑞稀くんのことで気をつけてほしいことオレに口頭で伝えればいいじゃん。さすがにこれ読むのは瑞稀くんに申し訳なさすぎるからできないよ」 「俺多分こういうのから気持ち読み取るの苦手だし。ルリの方が色々気付けるじゃん」 「……………」 難しい顔で黙り込んでルリは何も言わない。 俺が引くのを待ってるんだろう。 「見落としたくないんだよ」 瑞稀の心の傷をわざわざ抉ってその深さを見るようなひどい行為だと思う。 でも傷を見逃して死なせてしまうくらいなら、痛むそこに爪を立てても引き留めてやる。 「………たしかに清十郎はデリカシーもないし、たまにズレてるけど。本当に大切なことは一つも見落とさない子だって思ってるよ」 諦めたように一つ息をつくと、ちょうど開いたエレベーターのドアに進みながら俺の手からするりと封筒を抜き取った。 「子ってなんだよ。俺もう24なんだけど」 4つしか変わらないし、俺よりずっとチビのくせにルリはいつまでもガキ扱いをやめない。 ルリは兄弟のようなものだし別に嫌とも思わないけど。 「……ねぇ、これ誰に書かされたものなの」 カサっと封筒を開けると、大して長くもない手書きの文字を読み進めながらルリの顔が不快そうに顔を顰めて、いつもよりワントーン低い声でそうつ呟いた。 「やっぱルリもそう思う?」 「あの子を知っててこの手紙を文字通りに読み取る奴いたらそいつは頭に綿あめ詰まってるよ」 余程癪に触ったのか、言葉も刺々しい。 遺書の内容はあまりにも瑞稀の人柄からはかけ離れているものだった。

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