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「清十郎、今日は外で撮影だからわりとすぐ近くにいるんだよね。今連絡したらちょうど終わったとこらしいから、パッと迎えてきていい?」 スマホをスイスイと片手で操作しながらルリさんがチラッと僕をみる。 あ、僕関係じゃないし、見られるかもしれない外の現場で一緒に行くのはまずいのかなぁ。 「はい。ここで待ってます」 「どっちでもいいよ?どっちがいい?瑞稀くん、お目目真っ赤っかだから少し1人になりたいのかなぁって思ったの」 僕の目元を人差し指の第二関節で優しく押さえながら、ルリさんは柔らかく微笑んだ。 涙こそ零さなかったけど、今の顔はたしかに知り合いに見られたいものではなかった。 そっか。僕がついて行くことが迷惑とかじゃなくて、気を遣ってくれてるんだ。 なんだか、また胸に温かいものが込み上げる。 「すみません。それじゃあ待たせてもらっていいですか?」 「うん。何かあったらさっきのスマホ鳴らしてね。オレと清十郎の番号は入れておいたから。使い方わかる?」 何から何まで本当に世話好きだなぁ。 ルリさんにはマネージャーってお仕事よく合ってる気がする。 「ありがとうございます。大丈夫です」 「そこのカフェでお昼ご飯するけど、先にお店入っとく?そこの公園で待ってる?」 「公園で待ってますね」 「うん。じゃあ、ついたら連絡するね。知らない人について行っちゃだめだよ?」 心配しすぎなルリさんに思わず苦笑してしまう。 知らない人について行っちゃダメなんて、初日の出会いを思えばちょっとギャグのようにも思えちゃうな。 「ルリさん、僕15です」 「瑞稀くんかわいいから心配なんだもん。やっぱり一緒に行く?」 「四季さん待たせちゃってるんじゃないですか?大丈夫ですから」 「すぐ戻るからね」 ほんの少し離れるだけなのに、ルリさんはいろんな心配をしてくれながらやっと車に乗り込んだ。 絶対人気芸能人の集まる撮影現場に関係ない僕がついて行ったらよくないはずなのに、心配だって優先してくれることが申し訳ないって思うのにちょっぴり嬉しい。 可愛いだって。 そんなお世辞丸わかりの言葉すら、わかりやすいルリさんの優しさが溢れててまた涙が溢れそうになった。 さて、顔を洗おう。 冷やさなきゃ、今絶対泣きそうな顔隠されてる自信ないもん。 公園の水道に向かって歩き出すと、突然グンっと後ろから首根っこを掴まれて尻もちをついてしまった。 「な……っ!……コホッ」 なに!?と叫んだ声は喉が締まった息苦しさで途切れる。 後ろでジャリと砂を踏む靴の音が聞こえて、ドクンと心臓が跳ね上がった。 この喉の苦しさや突然視界が暗転する感覚には身に覚えがある。 むしろ、こうやってひっくり返されることは、日常茶飯事だった。 「………っ」 振り返ることが怖くて、手が震える。 走って逃げ出したいのに、体は凍りついたようにピクリとも動かせないでいると、見兼ねたように前髪をつかんで無理やり上を向かされた。 「久しぶり、フルシタ君」 「い、岩崎君…」 目が合ったそいつは僕を見てクッと口元を歪めて笑った。 その笑い方に、つい最近まで続いた学校での日々が頭に過ぎる。 「あ……う……」 「なぁ、お前が手に持ってるソレ、最新機種じゃね?俺の画面割れてさぁ、交換しようぜ」 僕が手に持っていたスマホを視線で指して、ぎゃははと大雑把に笑う岩崎君にさあっと体から血の気が引いた。

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