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聞き覚えのある声に、一瞬時間が止まる。
どうしよう。
なんでこんなに早いの?
こんな姿、見られたくなかった。
恐る恐る顔を上げると、スマホのストラップと同じ色の紅茶色の髪が風にさらっと揺らされて、相変わらずの無表情で四季さんが立っていた。
「うわっ!?し、四季清十郎!?へ!?は!?本物!?!?」
「きゃーーーーー!!!せ、せせせせ清十郎!?!?」
言葉が出ない僕とは打って変わって、岩崎君は動揺したようにスマホを落として、女の子は顔を真っ赤にして一昨日の看護師さんのように腰を抜かせてしまった。
「瑞稀立てる?」
地面に蹲ったままの僕を両脇を抱っこするみたいに起こしてくれて、ふわっと鼻をくすぐる香水の香りにどうしてか泣きたくなる。
「だ、大丈夫です…。すみません……」
「大丈夫じゃないでしょ。すごい土埃。これ着て」
僕についた土埃を簡単に手で払うと、そのまま何万もするであろうコートを僕の服の汚れを隠すように肩からかけてくれた。
「ダメです!汚しちゃいます!」
「いいよ。どうせ買い替えようと思ってたし」
「も、もったいないです!」
「そう?まぁワンシーズンしか着てないしね。じゃあ瑞稀にあげる。クリーニング出したらまた着れるんじゃない?」
そう言う意味じゃなくて!
ああ、もう。
なんか気が抜けちゃう。
この人ののんびりした空気は張り詰めていた心を少し乱暴に解くみたいだ。
「ねぇ、なんで1人でいるの?ルリは?」
「一緒じゃないんですか?今、四季さんを迎えに行ったばかりで…」
「入れ違ったかな。迎えに行くってメッセージきて割とすぐもうタクシー乗ったって送ったんだけど。運転中で見てないのかもね」
だからたった今ルリさんと離れたばかりなのにこんなに早いんだ。
起こってほしくなったすれ違いだな。
この状況、なんて説明していいのかわからない。
何も言えないでいる僕の髪をくしゃくしゃと撫でると、四季さんはくるっと岩崎君に向き直った。
「こんにちは。この子、俺の大切な子なんだけど何してたの?」
ビクッと体が跳ねてしまう。
やめて、聞かないで。
「え!?い、いや……ええ!?フルシタが!?」
「フルシタ?」
「や、な、なん、なんでもないっす!!」
あの岩崎君が焦って首をブンブン横に振る。
四季さんは顔の淡麗さだけじゃなくて人を落ち着かせなくさせるほどの圧倒的なオーラがあった。
「なんでもなく無いよね?瑞稀のこと蹴ってたでしょ?」
「違うんです!俺たち同中で、挨拶って言うか!なぁ!?えーと、みずき?くん!?」
名前なんて、今聞いて思い出したくせにしどろもどろと僕に話を振ってくる。
でも、僕もそこは掘り下げ欲しくないから、こくんと頷いた。
「あぁ、いい。瑞稀がこの手の話は嘘つく事くらいわかるから。
とりあえず瑞稀も踏み込んでほしくなさそうだから見逃してあげるけど、瑞稀が許せないって思ったなら、俺は大人気なく君のこと調べ上げて親御さんにも学校にも話して、出るとこ出るからね。
そのこと重々忘れないように」
「………っ、いや、あの……」
「はい。もう行っていいよ。君が汚したせいでこの子に新しい服買わなきゃだし、休憩時間ギリギリになっちゃった」
なにか言い訳しようとしてる岩崎君に、四季さんは冷たくバイバイと手を振る。
「スマホ落ちてるよ。はい、どう……」
四季さんの足元に落とされたままだった岩崎君のスマホを拾い上げた四季さんは、どうぞと言おうとしたであろう言葉を止めた。
待って。
そのスマホ、どの画面でフリーズしてるって言ってた?
ぶわっと冷や汗が込み上げて、息が詰まる。
岩崎君もまずいと思ったのか、顔を真っ青にして固まった。
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