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「あー!!!いたー!!!もー、清十郎!タクシー乗る前に電話の一本入ろよ〜!入れ違ったじゃん!」 緊迫した空気は覚えのある中性的な声にかき消された。 ルリさんと目が合って、何故だかホッとしてしまう。 きっとルリさんなら僕の気持ちを汲んでこのスマホを見なかったことにしろって四季さんに言ってくれる。 もう見られたことは仕方ない。 2人が優しいから何も言わないけど、どうせ僕がこんな人間だって気付かれてた。 1年後には死ぬんだから。 全部無かったことにできる。 「あれ?何この状況?」 僕達の緊迫した空気に気付いてか、ルリさんがきょとんと首を傾げる。 それから、僕の前まで駆け寄っていきなりぎゅっと抱き締めてきた。 「どーしたの瑞稀くん。さっきよりひどい顔。大丈夫だよ〜ルリさん来たからね」 僕なんかが、この腕に包まれていいはずない。 大丈夫ですって離れなきゃいけないのに、優しい柑橘系の香水の香りに包まれて、ぶわっと溢れた涙に何も言えなかった。 「で、なぁに?君たち、この子と同じくらいの歳だよね?お知り合いかな?」 僕の背中をぽんぽんと撫でながら、ルリさんが少し声を低くなる。 「ルリ、こいつら瑞稀の見られたくないであろう写真持ってた。こいつの端末からは今消したけど」 「……そう」 感情の読めない2人の声に、体が震えてしまうと、僕を包むルリさんの手に少し力が籠った。 「お、俺が撮ったんじゃないっすよ!?回ってきたやつで!!俺はこんなやつ出回ってるってこいつに教えてやろうと今出しただけだし!!」 岩崎君が焦ったように早口にそう声を張った。 よくそんな嘘が咄嗟に思いつくもんだと思う。 確かに岩崎君は逃げようとした僕の首根っこを掴んで転ばせただけで、写真を撮ったのは別の人だった。 「そう。じゃあ回してきた人に今すぐ電話して。他に誰に送ったのか聞いてくれる?本人含めてその人たち全員に消すよう話つけるから」 「い、いや……スマホ最近調子悪いし……」 「関係ねぇよ。早く電話かけろって」 四季さんの低い声が岩崎君を追い詰める。 待って、そんなことしたら健君にまで僕の今の現状知られちゃうかもしれない。 「も、もういいです……もういいから……」 ルリさんなら、わかってくれる。 そう縋るようにルリさんの服を握ると、また 優しく背中を撫でられた。 「清十郎。瑞稀くんが怖がってるからちょっと待って。オレが話つけるから後日でいいんじゃない?」 案の定、気持ちを汲んでくれるルリさんにホッと息をつく。 「甘やかすな。怖いって言うなら瑞稀つれて離れてろ」 いつもルリさんに言われたことは、どうでもよさそうに言われた通りにする四季さんが厳しい声を出した。 ルリさんにこんな声を向けるなんて、たった二日しか一緒にいなかったけど、四季さんらしくない気がして信じられなかった。 「まって。わかった。清十郎が表立って動くのはまずいから、交代しよう。オレが話つけてくる。清十郎が瑞稀くんについててあげて」 「芸能人とか関係ない。瑞稀を引き取ったのは俺だろ。俺が話しつける」 四季さんの真っ直ぐな声が、心に強く響いた。 どうして。 四季さんに関係ないのに。 僕は望んでない。 四季さんにとっても絶対厄介な話なのに。 "あんたのことなんて世間体があるから仕方なく引き取ってやったの。いるだけで迷惑なんだから自分のことは全部自分でやりなさい。厄介ごとを持ってこないで" いつかの叔母の声が蘇る。 あれは、まだ小学校の頃、僕がいじめられてることに気がついた担任の先生が親を呼び出した。 その帰り道に言われたセリフだ。 だから、それからずっと大人には気付かれないように隠して来た。 迷惑かけるってわかってたから。 それなのに、どうして四季さんはいつも面倒ごとに自分から踏み込んでくるんだろう。 人一倍、人目は気にしなきゃいけないはずなのに。 いつもは無表情な四季さんが珍しく不快そうな眉を顰める姿に、胸がぎゅっと痛んで声が出ない。

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