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岩崎君達が見えなくなるくらいまで進むと、ずっと無言だった四季さんが足を止めて振り返った。
たくさん迷惑かけてどんな顔で向き合えばいいのかわからなくてつい顔を背けてしまいそうになる。
でも、まずは謝らなきゃ。
忙しい仕事の合間をぬって一緒にお昼ご飯を食べようとしてくれてたのに、僕のせいで面倒事に巻き込んでしまったんだから。
「あ、あの、ごめ……」
「ごめんな瑞稀」
僕が言おうとした同じ言葉で四季さんが遮った。
「えっ…えっ…?」
なんで四季さんが謝るの?
困惑して言葉が出てこない。
「絶対踏み込まれたくない内容だったよな」
それは、そうだけど。
四季さんは僕のためにしてくれていたことはわかるわけだし、謝る理由がわからない。
あの時、ルリさんにまで厳しい声をしていたから怒ってるのかと思っていたのに、四季さんの声はもうその色はなかった。
「でも、さっき言ったことは全部本音だから。瑞稀のこと家族だと思ってる。だから、ああいうのは俺が許せない」
もういつもと同じような無表情なのに、その声だけは強く胸に響くような音をしていた。
岩崎君が蹲る僕を蹴ってた時、助けてもらったのに僕が嫌がったから、一旦はその気持ちを汲もうしてくれていた。
あの画像を見て、目の色を変えたんだ。
この人は、僕がされたことで怒ってくれていた。
「あの画像は絶対に全部消させる。だから先に謝っとくね。瑞稀にとって踏み込まれたくないことに踏み込んでいくことになると思う」
目にかかる僕の長い前髪を指で撫でるようにどかして、四季さんは穏やかに微笑んだ。
「……俺のこと嫌いになっていいからね。それでも俺は瑞稀にこれから何があっても絶対守るから」
やっと止まりそうだった涙がまた込み上げてくる。
なんでそんなこと言ってくれるの。
あの夜たまたま出会っただけなのに。
「俺もう職場に戻るけど帰ったらまた話そう。瑞稀が嫌だったこととか、俺の文句とかいくらでも聞くし、正面切って言いづらいならメッセージ送っておいて」
チラッと腕時計を見て、四季さんは僕の肩にポンっと手を置いた。
あんなことに巻き込んじゃったから、ご飯食べる時間がなくなっちゃったんだ。
それなのに、そのことに文句も言わないで、まだ3月で寒いのに僕のコートをかけたまま通りすがったタクシーを停めた。
「……っ四季さん!あの、ご飯もコートもごめんなさい!」
長く呼び止めちゃいけないと思って慌てて言った言葉は支離滅裂なのに、四季さんはクスッと笑った。
「瑞稀は怒っていいんだよ。ルリとうんと美味しいもの食べておいで」
「いえ、あの……」
「ルリ、瑞稀の今日の服は全部捨てて新しいの買ってやって。今の現場にいる間は用事頼むこともないから」
「はーい」
言葉に詰まってる間にルリさんに話を逸らしてそのままタクシーで行ってしまった。
「ごめん!やっぱ1人にするべきじゃなかったー。怖い思いさせて本当にごめんね!」
タクシーを見送った瞬間、ルリさんが振り返って僕の手を両手で包んで申し訳なそうに頭を下げた。
「いえ、僕が残りたいって言ったわけですし謝らないでください!四季さんは有名人なのに面倒なことに巻き込んでごめんなさい!」
「そんなこといいんだよ〜。ていうか…」
ルリさんは何かを言いかけて、ほんの一瞬瞳を揺らして言葉を止めた。
「……ルリさん?」
「ごめん、なんでもない」
心配になって声をかけると、ルリさんは明るく笑って首を振る。
それから、「買い物に行こっか」と僕の手を引いて歩き出したから、それ以上聞くことはできなかった。
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