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「雰囲気があんまりにも暗かったり、瑞稀くんが怖がってたりしたら助けるけど、オレ基本何もしないからね」 「ん」 マンションについて、エレベーターが開くと清十郎はオレの言葉に頷きながら進んだ。 オレが家を出た時の様子からすると、大丈夫だと思うけど、清十郎からしたら怯える瑞稀くんに酷なことした負い目が身構えさせるんだろう。 カードキーを取り出してドアを開くと、奥からパタパタと駆け足でこちらに近づくスリッパの音が聞こえた。 「おかえりなさいっ!」 想像の5倍くらい明るい声の瑞稀くんにオレも清十郎も驚いてしまう。 「ただいま」 「えっと、お夕飯の支度もお風呂の支度も済んでます。多めに作ったのでルリさんさえお時間の都合よければ食べていってください」 「わぁ、嬉しい。実はうちの人も今日職場の集まりで家にいないから、もう夕飯いいやって思ってたんだよね」 ていうか、あんな昼の出来事の後に健気に清十郎のご飯の用意するなんてお利口さんすぎる。 「よかった。すぐ温め直しますね」 「手伝うよ〜」 「いえ、座っててください」 「いいの。瑞稀くんとお喋りしながらやりたいだけだから、やらせて」 「う。ありがとうございます…」 相変わらず、この子は自分を下僕か何かだと思ってるのかな。 ご飯の用意してもらったんだから、これくらい手伝いのうちにも入らないのに。 「瑞稀くんあの後ドラマの続き見た?」 手を洗って、皿を並べることや盛り付けを手伝うと、どこか叱られることを待つような怯えた表情をする瑞稀くんに、ドラマの話題を振ってみると、待ってました!と言わんばかりに表情をぱあっと明るくした。 「はい!もう面白くて一気に見てました!今ちょうど8話見終わったところで、四季さんすっごくかっこよかったです」 これか。帰ってきた時にテンションがいつもより少し高かった理由は。 「あー!わかる!8話いいよね!オレも演じてるのが清十郎ってこと忘れてときめいたもん。警察が犯人逃しちゃった先で待ち構えててぶん殴って止めるシーンでしょ?」 「そうですそうです!僕ドラマって初めてだったから、時間も忘れて熱中してました!」 わかるなぁ。 オレもあのシーンは大興奮で、ちょうど電話で席を立った千に息も忘れるくらい早口に語ったもん。 あれはしばらく熱が続くよね。 「楽しんでくれたならよかったよ」 嬉しそうに話す瑞稀くんの頭にポンと手を置いて、清十郎が優しい笑顔をむける。 そりゃこの2人のことだから、喧嘩になることもなく、すんなり蟠りも無くなるだろうなって思ってたけど、思った以上にオレがいらなくて、家に入る前の気合の入ったやりとりを思い返すと笑っちゃうんだけど。 「あと2話で終わっちゃうのが寂しいです」 しょんぼり話す瑞稀くんの言葉に清十郎がスマホで放送を確認する。 「最終回は来週放送だっけ?」 「そうそう。清十郎の家でも録画予約しといいたよ」 「助かる。録画機能なんて使ったことないからやり方わかんねぇわ」 だろうね。 清十郎ってば、撮り終わった撮影のことすっぱり興味無くすし。 「あ、そうだ。瑞稀甘いもの好き?コレ、今日のお詫び。コンビニスイーツで悪いけど色々買ったから好きなの食べて」 途中でコンビニ寄ってと言い出してガサガサなんか色々買ってきたと思ってたら、それ買ってたんだ。 可愛いところあるな。 「え、えっ?そんな……お詫びだなんて。むしろ、僕の方こそ巻き込んでごめんなさい。お昼も結局食べれませんでしたよね?」 「ううん。巻き込まれたなんて思ってないよ。俺も甘党だから一緒に食べよう」 差し出されたビニール袋をどうしたらいいのかわからないように焦る瑞稀くんに清十郎が強引に袋を押し付けると、ようやく受け取った。 「ありがとうございます。実は甘いもの、食べたことなくて……嬉しいです。わ、プリンがある」 袋からプリンを一つ取り出して、瑞稀くんがキラキラした目を向ける。 「え?給食で出なかった?」 「給食のプリンとか、人気のあるおかずとか絶対他の人に取られてたから、いいなって思いながら諦めてました。まさか給食を卒業してから食べれるなんて思ってもみなかったです」 どいつだうちの瑞稀くんからプリンカツアゲしたやつ。 今日あった顔面岩みたいな奴かな。 ぶん殴ってやりたい。 「そう。給食のちゃっちいプリンよりは数倍美味しいと思うから楽しみにしてて」 「はい」 今日あんなことがあったのに、2人の纏う空気は穏やかだ。 これならなんの心配もいらないし、話し合いは2人で出来だろう。 ご飯食べたらすぐ帰ろ。 「あ、ルリの抹茶ムースケーキもあるから」 「やったー。ありがとう」 食後の楽しみが出来たところで、ちょうど夕飯の準備が整った。

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