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「いいね。セッティング完璧じゃん」 手を拭いて戻りながら、ピンときた。 ポケットに忍ばせておいたハンドクリームを自分の手にわざと多めに出して手に塗り込む。 「うわ、ハンドクリーム出しすぎちゃった。瑞稀くんちょっともらって〜」 「あ、はい」 手を握ったり、引っ付いたりするたび、ビクッとしていた瑞稀くんも、ここ二日執拗なくらい引っ付いた成果か、意外とすんなり手を出してくれた。 瑞稀くんの手に塗り付けると、オレと瑞稀くんの手から主張しすぎないアロマのいい香りが優しく鼻に届く。 うん、やっぱいい値段するだけあるな。 「あれー?これオレがいつも買ってるやつじゃない。間違えて違う匂いのやつ買ってる」 今気付いたように装ってハンドクリームの裏を見て、困った顔を作ってみる。 ちょっとわざとらしかったかな。 「そうなんですか?コレもいい匂いですよ?」 「えー?そう?ダメダメ。オレ拘りあるもん。コレもう使わない。瑞稀くんよかったら使ってくれない?」 「え、僕なんかの手に使うのは勿体ないです。四季さんとか…」 「俺、手ベタベタするの苦手。いい匂いじゃん、貰えば?」 オレがハンドクリームなんて使ってるところ見たことないくせに、察したのか清十郎がうまくアシストしてくれる。 それでもまだ、でも、とか言って遠慮しようとする瑞稀くんの手にハンドクリームを押し付けた。 「じゃあこれは美味しいご飯のお礼ってことで。余り物でごめんね」 「いえ、そんな、ご飯くらいで…。それにコレ高いんじゃないですか?」 「いやいや、清十郎じゃなくてオレの私用の買い物だよ?手頃な値段だし、このままだと捨てるだけだから貰ってよ」 「…….じゃあ、すみません。いただきます」 香りを気に入ってくれたのか、嬉しそうに笑ってくれた瑞稀くんの表情に、傷付けることなく渡せたことにホッとする。 「はは。なんのすみませんなの。引き取ってくれてありがとう。さ、デザートにしよ♪」 みんなで一個ずつ選んであとは冷蔵庫に戻すと、夕飯を食べた時と同じように、瑞稀くんの隣の席についた。 アレ、一日1個以上2人で食べたとして、5、6日分くらいあったけど賞味期限大事なのかな。 まぁ、清十郎はいわゆる痩せの大食いだし大丈夫か。 そして食べながらドラマを再生すると、途端にみんな黙り込んでしまう。 何回見てもハラハラしちゃうもんな。 物語が中盤の時、オレのスマホがポケットで振動した。 確認すると、大好きな人の名前が表示された着信画面。 「ごめん、電話だ」 席を立って廊下に出てから電話に出ると、もう職場の飲み会は終わっていて、今家に着いたけどオレがいないから電話してみたというもの。 そう言えば連絡するの忘れてた。 2次会とか行かなかったんだ。偉いなぁ。 「はーい。それじゃあ、すぐ帰るね」 毎日家で会えるのに、電話から声が聞こえるだけで、昔と変わらず胸がぎゅっと締め付けられて気分が明るくなる。 電話を切ると、スマホをポケットに戻してリビングに戻った。 わざわざドラマを一時停止してくれていたようで、2人はドラマのことを語りながらなんだか雰囲気は楽しそうだ。 この様子なら、オレが帰った後の話し合いも、心配いらないな。 「うちの人帰って来たみたいだから、オレも帰るね。気が付けば遅くまで居座っちゃってごめんね」 見送ろうとしてくれた2人にそのままでいいよって声をかけたのに、玄関までついて来てくれる。 「明日は朝ゆっくりだから9時に迎えに来るね」 「ん。帰り運転気をつけて」 「はーい。ご飯ごちそうさまでした。おやすみ」 バイバイと手を振ってドアを閉めると、ぐーっと手を伸ばして歩き始めた。 今日は嬉しいことたくさんあったな。 明日もゆっくりだし、久しぶりに晩酌でもしちゃおう。 可愛い2人を思い浮かべてエレベーターに向かって歩いた。

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