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「瑞稀、ドラマも最新話まで見終わったし、少し話そうか」
リビングに戻りながら、半歩後ろを歩くを瑞稀にそういうと、察したように「はい」と落ち着いた声が返って来た。
テーブルに向かい合って座ると、少し冷めた紅茶に口をつけて戻すとカチャと食器の音だけが小さく空間に響く。
「俺、瑞稀にこの家に来いって行った時強引だったじゃん」
「………………………はい」
たっぷり悩んでのハイは、性格上そんな事ないですとか言いたかったんだろうけど、言えないほどの強引さがあったから頷くしかなかったんだろうな。
俺もわかっててやったんだから、そんなふうに気を遣わなくていいのに。
この子の行動一つ一つは人の顔色を伺ってばかりだ。
「あの時一年一緒にいて、それでも死にたいなら今度は引き止めないからって言ってうちに呼んでしょ。
言わないままにしておくのはずるい気がするから、腹を割って話そうと思うけど、瑞稀は話したくないことは言わなくていいから、少し長くなるかもしれないけど、聞いてくれる?」
俺の言葉に、少しだけ動揺したように瞳を揺らして、こくんと頷いた。
「ほんとはさ、あの時一年の間に瑞稀が死ぬことを諦めたらいいのにって思ってたんだよね。
だから、瑞稀が死にたいって思っちゃうような出来事を、気付かれないように探って解決しちゃえばいいって思ってた。
でも昼間のことで考え甘かったなって反省した」
多分瑞稀は言いたいことや聞きたいことがたくさんあっただろうけど、どこか不安そうな顔をしながらも、ぐっと口を結んで静かに話を聞いてくれた。
「あんな風に瑞稀を怖がらせるタイミングで知ろうとしたわけじゃなかった。
でも、知られたくないであろう瑞稀の過去を最初から探るつもりだったことは確かだし、家族だって言っておきながら隠し事ばっかするのはやっぱりずるいよな」
もちろん、昼間のことが起こらなければ隠し通せたかもしれないけど、今後起こり得ないとも言い切れない。
この一年で生きることを望んで欲しいわけだから、どんどん外に連れ出して楽しいことを見つけて欲しい。
問題が解決するまでこの家に閉じ込めるだけだなんて、そんなひどいことをしたくてあの日引き止めたわけじゃない。
「俺ね、隠してるんだけど、実は溝口淳一っていう大物俳優の隠し子なんだ。このこと知ってるのは事務所の社長と、ルリだけ。多分マスコミに売ればいい値するよ」
「い、言いません」
「うん。知ってる」
言わなくても瑞稀がどれだけ優しい子なのかわかってるのに、俺を安心させるために口を開いた瑞稀に思わず口元から笑みが溢れてしまった。
人が言いづらいことを話すにはまずは自分から。
そうやって当時誰も寄せ付けなかった俺の心をゆっくり開いてくれ男を思い出して、一度小さく息をついた。
このことを話すのはいつも少し、胸糞悪い気持ちになる。
俺が瑞稀に与える苦痛を身をもって先に知るようだった。
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