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記憶の中の母さんはいつも化粧台の前で気持ち悪いほど濃ゆいメイクを何度も重ねていた。
お腹が空いても、声をかけると殴られるから隅でじっと息を潜めるだけ。
テレビに出てくる男を食い入るように見てはぶつぶつとなにかを呟き、また化粧台に戻る。
ある日、男が札束を持ってやってきた。
忌々しそうな顔で俺たち親子を見下ろすと札束をおいてすぐ出ていこうとして、母親が発狂したように縋りついた。
「待って!!あなたの子供がここにもいるのよ!?」
そう泣き叫ぶ母親に男は不快そうに顔を歪めて顔面を殴りつけた。
「でけぇ声出すな。聞かれたらどう責任取るんだ。いいか?この事が誰かに知られたらてめぇら、俺の事務所の力でぶっ潰してやるからな。2度と連絡してくるな」
そう言ってもう一発母親を蹴ろうとしたその男を咄嗟にぶん殴った。
突然のことだったからか、尻もちを付いたことをいいことに、再度拳を振ろうとした時、後ろから母親にぶっ飛ばされた。
「私の淳一に何してんのクソガキ!!!」
それから起き上がった男に、顔の形が変わるくらい殴られて、男は縋り付く母親を蹴りどかして出て行った。
今思えば、あの札束は口止め料だったのだろう。
「ねぇ、清十郎……あんた、俳優になりなよ。あんた私に似て顔いいしさ、私達をこんな目に合わせたお父さんやあの女から仇とってよ」
酒を飲んではそんなことを度々言う母親の気の狂ったような甲高い笑い声は反吐が出そうなほど気持ち悪いものだった。
マンションに住む周りの大人達は心配そうに声をかけてきては、勝手に捏造した楽しそうに噂話を言って回る。
担任も、俺の怪我に気付いていたくせに見て見ぬふりだ。
いつからか大人はみんな薄汚ないものに思えた。
小学校5、6年からは家にほとんど帰らなかったし、中学校では絡まれる度にやり返していたら、いつのまにか喧嘩の強さで変な異名を語り継がれ、もう誰も近寄らなくなっていた。
どいつもこいつも噂話やら肩書きばかりに振り回されやがる。
それでも腕っ節の強さを買われて、喧嘩を手伝ってやる代わりに金を受け取ったりそんなことを繰り返していた中2の夏。
しばらく帰らなかった家に立ち寄ると、入った瞬間、鼻が曲がりそうなほどキツい異臭が部屋に立ち込めてきた。
すぐに出ようと思ったけど、視界の隅で何かが揺れて、靴のまま散らかった部屋に入った。
そこでは、変わり果てた女が首を吊っていた。
後から聞いた話だけど、死後2週間以上経っていたらしい。
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