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第5話

 それにしても奈津は、考えなしに海未を連れて帰ってきてしまった。奈津は申し訳ない気持ちで、海未に告げる。 「布団、一組しかないんだけど」  それに海未は「あは」と笑った。明るい色の髪が小さな顔の横で左右に揺れた。 「見ればわかるよ。おれ、畳で寝ようか?」  それはちょっと無理な相談だ。何が悲しくて、一目惚れした子を畳で寝かさなきゃいけないのだろう。それくらいなら奈津が床に寝た方がましだ。 「海未くんはっ、布団で寝ていいからっ。あ、嫌じゃなかったら、だけど」  他人の寝床で寝れない性分なら、無理にとは言わない。  ただ一生懸命な奈津は、海未のツボに入ったらしい。「あは」「あはは」と腹を抱えて笑っている。一頻り笑って、涙まで浮かべてひぃひぃ言った海未は、膝立ちで奈津の正面までやってくると、すり、と額をすり寄せてきた。猫みたいだ。 「王子さまの隣がいいです」  目を細めて、海未は、へら、と笑った。造作も可愛らしいけれど、ちょこんと首を傾げる仕草も可愛い。よく笑うところも可愛いと思う。突然の「可愛い」の嵐に許容範囲をオーバーした奈津が固まっていると、「どうしたの?」とさらに海未は詰め寄ってくる。  奈津は頬が熱くなる。 「……海未くんが、可愛いので」  隣で寝て下さい。  何をするわけでもないのに、奈津は目茶苦茶に緊張した。灯りを消して、海未を踏まないように避けてから、布団に入る。布団では海未が夏掛けのタオルケットを捲って、「どうぞ」をしてくれた。  寝てみてはじめて気付いたけれど、ひとり用の布団に男ふたりを詰め込むのには大分無理があった。小柄な海未でも、思いの外間近に顔があった。暗さに目が慣れてきて、海未と目が合うと、へら、と笑われる。奈津の方も釣られて口元が緩む。 「ねえ、奈津さん。触っていい?」  え。何を。  奈津の思考が追いつく前に、海未の両手が奈津の頬に触れた。ぺたぺたと輪郭を確認するように、撫でていく。 「う、海未くん?」  戸惑う奈津など、お構いなしだ。耳を塞いだり、髪の毛をくしゃくしゃにされたりする。そして額からゆっくりと海未の手のひらが下りてきた。目蓋を閉じさせられる。海未の手で目隠しをされて、最初は先程の遊びの続きかと思ったけれど、その手はしばらく動かなかった。 「海未くん?」  今度は何の遊びのつもりなの。  そう思った矢先に、唇に柔らかなものが触れた。温かくて、気持ちいい。ゆっくりと角度を変えて、ちゅ、ちゅ、と繰り返される。 「おやすみ、王子さま」  ようやく海未にキスされたのだとわかったときには、目隠しは外され、海未はシーツに顔を押し付けていた。

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