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第7話
昨日一応洗濯機にかけた洗濯物は結局乾かなかったので、海未は奈津の服を着ていくことになった。Tシャツから伸びる腕は相変わらず細くて、全体的に服に着られている印象だ。
「服まで貸してくれて、ありがとね」
海未はまた、へら、と笑う。何か忘れているようだから付け足しておく。「スニーカーもだよ」海水と砂の染み込んだスニーカーはもう履けないだろう。
「うん、それも。ありがと」
海未は素直に返事をする。
「で、朝ごはん、食べてく?」
海未が余りに痩せているから、奈津はいらない心配をしてしまう。そうは言っても奈津も一人暮らしで、冷蔵庫にはろくに食材を入れていない。冷蔵庫を開けて確認すると、あるのは卵と食パンと、賞味期限は不安だけれどハムくらいだった。
「食べてく」
と食い気味の海未に、「コーヒーってインスタントだけど、飲める?」と尋ねる。仮にも相手はカフェでバイトをしているのだから、インスタントなんて飲めない、と言うかもしれない、と思った。けれど海未はそこらへんの拘りはないらしい。
「インスタント、全然オッケー。楽だし、いいよね」
へら、と笑って、指で丸を作る。顔のつくりが可愛い所為か、何かの広告のようだ。
「そこんところ、拘らないの?」
グリルで食パン二枚を焼き、奮発してフライパンではハムと卵を焼きながら、尋ねる。カフェの店員の矜持とかないのだろうか。
「拘んないよ。普通、作ってくれるものに文句言わないでしょ?」
よくできた十八歳だと思った。
「そう言われると、作る方も楽」
そういうわけで小さなテーブルに、不揃いのマグカップに入ったインスタントコーヒーと、皿が足りなくて、少し焦げた食パンの上に乗せたハムエッグを並べた。海未は食パンに載ったハムエッグに興奮して「これいいよね」「テンション上がる」とご機嫌だった。
とりあえず、奈津は胸をなでおろす。他人に食事を供したことなどなかったので、内心とても緊張していた。
海未は本当にコーヒーを飲み干して、皿にパン屑を残すのみで、五分で食べきった。「ごちそうさま」と両手を合わせる。作り甲斐のあるやつだと思った。それからおもむろにポケットからスマートフォンを取り出す。
「奈津さん、連絡先教えて」
曰く、服が乾いたら取りに来るから。だめになったスニーカーも回収にくるから、ということらしい。海未のスマートフォンは最新のものらしく、防水加工もされているらしい。
一方奈津のスマートフォンは年季が入っていて、海未のものと並べると恥ずかしい。ともかくメッセージアプリのIDを教え合う。
こうして奈津は海未と連絡先を交換して、期間限定彼氏になった。昨日の朝の自分に言っても信じてもらえないだろう。
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