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第9話

「ねえ、『期間限定彼氏』ってどう思う?」  講義の合間の休み時間に、近くの席の友人にきいてみる。友人は眉を顰めて、「お前、それ、キープじゃね?」と答えてくれた。 「だよねえええ」  頭を抱えて、奈津は机に突っ伏した。たっぷり十秒は凹んでから、おもむろに顔を上げる。 「じゃあ、キープってどこまでならしていいの?」  手は繋いでもいいのか。キスは。それ以上は。  奈津は海未が許すならしてみたいけれど、どれをとったところで海未のいちばんにはなれないのかと思うと、それも空しい。奈津は海未を思っていても、海未はきっと違う誰かを想像しているのだ。  そんなことを考えていた顔を、友人に見られたらしい。友人は呆れた顔で、奈津を見た。 「お前、重症だな。キープの自覚があるなら、別れるか乗っ取るかしろよ」  成程。別れるのは、海未はともかく奈津は今はまだ嫌だ。では海未の本命を乗っ取るか。そうするには相手を知らな過ぎる。そして奈津が乗っ取ったところで、きっと海未は喜ばない。 「それも難しいかも」  はあああああ、、と友人は盛大な溜め息を吐いた。 「脈がなきゃ、キープにすらならねえよ。本命に足りない部分があって、不満があるから、キープがいるんだろ」  そうだろうか。海未には理想の人がいて、次の人が見付かるまでの、奈津は穴埋めだ。ちょっとニュアンスが違うような気がする。「うん」と生返事を返すけれど、友人は結構深刻に考えてくれているようだった。 「新しい子と付き合っちゃえよ。この世で付き合えるのはひとりとは限らないし」  そうかもしれない。けれど惚れているのは奈津の方だ。ばっさり切り捨てられるわけがなかった。 「ううん」と、YESともNOともつかない返事を返して、その話はそこで終わりになった。  丁度講義のはじまる時間になった。奈津はノートを拡げて、友人から距離をとる。でも頭の中は友人の言葉でいっぱいだった。「脈がなきゃ、キープにすらならねえよ」。それは、少しは海未に期待してもいいということだろうか。  どうなの、海未くん。  心の中で問い質してみても、海未くんは、へら、と笑って唇に人差し指を一本立てて、「内緒」と言うばかりだ。  僕は海未くんが好きだよ。  どうしたら既にいちばんのいる海未の隣に、奈津が並べるだろうか。難しい。黒板に繰り広げられている応用心理学の話よりも難しい。  また講義の内容は右から左へ流れ、奈津の頭にはほとんど残らなかった。  講義が終わったら、海未くんの働くカフェへ行ってみようか。いや、彼氏面をしたいわけではないのだけれど。  講義が終わり講師が教科書を片付けているのを横目に、奈津は荷物をまとめて、足早に教室を出た。うしろで友人が「二宮?」と訊いてくるが無視だ。

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