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第11話

 メッセージアプリで連絡をとって、カフェが閉店してから、奈津は向かいの公園で海未が出てくるのを待つ。閉店後十五分くらいで海未は店をあとにしてきた。公園の入り口で立っている奈津を見付けると、人懐っこい笑顔で手を振ってくる。 「奈津さん」  それには「お疲れさま」と返した。海未は自然に奈津の隣に並んで、手を伸ばしてきた。指先が触れる。びくり、と奈津の肩が震えた。 「あ、ごめん」  即座に海未は謝ってきた。海未は奈津と手を繋ぎたかったのだと思う。それには奈津の方が「吃驚しちゃって。ごめん」と謝った。  奈津は海未の期間限定彼氏だ。けれど海未には本当に好きな人がいた。今は次の王子さまの現れるのを待っている期間だ。それでも海未は奈津と手を繋ぎたいだろうか。わからない。 「奈津さん、『わかんない』って顔してる」  くすくすと笑いながら言う海未を、奈津は理解できないでいる。 「だってわかんないよ。海未くんには本当に好きな人がいるのに、なんで僕と手を繋いだりするの」  そうやっていろんな人をキープしたりしてきたの。なんて邪念が湧いてくる。海未は眉尻を下げて、ちょっと悲しい顔をした。 「今は奈津さんがいちばんだから」 「今は」。それは次の海未の王子さまが現れるまでの時限式だ。奈津は海未のことばかり考えるくらいに、海未が好きなのに、そんな暫定いちばんなんて、悔しいだけだ。  何とも落ち着かない空気の中、アパートに戻る前に、奈津は海未を連れて深夜二十二時まで営業しているスーパーに行くことにした。緑のカゴを手にとって、「何が食べたい?」と訊く。 「なんでも。奈津さんにお任せ」  奈津のうしろに雛のようにくっついてくる海未は、頓着しない様子だ。  まずは卵を手にとる。本当は十個入りが安いのだけれど、一人暮らしでは使い切れないので、泣く泣く六個入りをカゴに入れた。次に、隣の売り場を指さして「あ、ソーセージ食べたい」と海未が高い方のソーセージを指さして言うので、「はいはい」と奈津は二パック三百円しない方のソーセージをカゴに入れた。海未がぷくぅとむくれたけれど、気にしない。一人暮らしの学生に余裕があると思わないで欲しい。 「苦手なものとかある?」  野菜売り場を歩きながら海未に尋ねる。海未は「ないよ」と答えたので、プチトマトとトマトの前を行き来して、値段を見比べる。三個入りのトマトを手にとった。これは使いきれるのだろうか。とりあえず冷凍ブロッコリーも一緒に入れておく。これでなんとかなるだろう。 「奈津さん、今日はお世話になります」  急に海未がぺこり、と頭を下げた。明るい色の髪がふわり、と頭と一緒に動く。しっかり三秒下げた頭は四秒めで上がった。その顔はへら、と人懐こく笑っていた。黒くて長い睫毛に縁取られた目が細まっていて、やっぱり可愛い。 「はい、お世話します」

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