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第13話
真暗な中、海未に頭を抱えられると、奈津の鼻孔におそろいのシャンプーとボディソープのにおいとは別のにおいが入ってくる。これが海未のにおいで、胸に顔をうずめると、とくとくと聞こえてくるのが海未の鼓動なのか。
「ちゃんと生きてる」
当たり前のことが嬉しくて思わず口にすると、「え?」と返された。
「海未くんのにおいがする」
なので言い直す。すると海未の方も奈津の髪の間に鼻先をつっこんできた。
「奈津さんのにおいもする」
あえて言われると恥ずかしい。
「なんで言うかな」
海未の腕の中でむくれてみせると、海未は小さく笑って、「先に言ったのは奈津さんだし」と言われた。海未の手のひらが優しく奈津の髪を撫ではじめる。
「奈津さんは、おれにこういうことされて、やな感じ?」
どうだろう。そんなこと考えたこともなかった。片手は奈津の髪を撫でたまま、もう片方の海未の手のひらが耳を通って、首すじを撫でていく。素肌と素肌が触れると温かくて、気持ちいい。もう少し、と思っている間に、海未の手のひらはTシャツの上を這いはじめた。
「嫌じゃないけど、海未くん?」
何をするの。
海未の手のひらは奈津の胸を撫でて、腕を這い、奈津の手のひらを見付けると、指を絡めてきた。
「ふふ、今は手を繋いでも吃驚しないんだね」
奈津からは海未の顔は見えないけれど、楽しそうだ。
「そうだね」
海未が、奈津も海未の王子さまになれるかもしれない、と言った所為かもしれない。奈津が海未の影で口元を緩めていると、海未が耳元で囁いてきた。
「ね、おれも触って欲しい」
え、と思っている内に、繋いだ手が海未のTシャツの上へ導かれる。平らな腹や薄い胸をゆっくり撫でていく。女の子のからだとは違う、丸みも柔らかさもないからだだ。それでも奈津はどきどきした。
「……こういうの、やじゃない?」
海未の顔を見上げると、心配そうな顔をしていた。奈津に拒絶されるんじゃないかと不安げな海未に、庇護欲をそそられる。首を伸ばして、奈津は海未に触れるだけのキスをする。右手を海未のからだのラインに沿って撫でていき、Tシャツの裾から手のひらを差し入れた。温かな、海未の体温が直接伝わる。
「やじゃない」
海未のからだは本当に細かった。強く扱ったら壊れてしまいそうで、恐る恐る触れていく。平らな腹は何度撫でても平らなままで、見付けたへそに指先を突っ込んでみると、海未は「やだぁ」と身を捩った。
「奈津さん、くすぐったい」
くすくす笑いながら、海未が奈津からからだを離そうとする。奈津としてはこのまま逃がしたくない。「海未くんから言ったんでしょ」と、海未の薄いからだを抱きしめた。
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