13 / 30

第13話

 真暗な中、海未に頭を抱えられると、奈津の鼻孔におそろいのシャンプーとボディソープのにおいとは別のにおいが入ってくる。これが海未のにおいで、胸に顔をうずめると、とくとくと聞こえてくるのが海未の鼓動なのか。 「ちゃんと生きてる」  当たり前のことが嬉しくて思わず口にすると、「え?」と返された。 「海未くんのにおいがする」  なので言い直す。すると海未の方も奈津の髪の間に鼻先をつっこんできた。 「奈津さんのにおいもする」  あえて言われると恥ずかしい。 「なんで言うかな」  海未の腕の中でむくれてみせると、海未は小さく笑って、「先に言ったのは奈津さんだし」と言われた。海未の手のひらが優しく奈津の髪を撫ではじめる。 「奈津さんは、おれにこういうことされて、やな感じ?」  どうだろう。そんなこと考えたこともなかった。片手は奈津の髪を撫でたまま、もう片方の海未の手のひらが耳を通って、首すじを撫でていく。素肌と素肌が触れると温かくて、気持ちいい。もう少し、と思っている間に、海未の手のひらはTシャツの上を這いはじめた。 「嫌じゃないけど、海未くん?」  何をするの。  海未の手のひらは奈津の胸を撫でて、腕を這い、奈津の手のひらを見付けると、指を絡めてきた。 「ふふ、今は手を繋いでも吃驚しないんだね」  奈津からは海未の顔は見えないけれど、楽しそうだ。 「そうだね」  海未が、奈津も海未の王子さまになれるかもしれない、と言った所為かもしれない。奈津が海未の影で口元を緩めていると、海未が耳元で囁いてきた。 「ね、おれも触って欲しい」  え、と思っている内に、繋いだ手が海未のTシャツの上へ導かれる。平らな腹や薄い胸をゆっくり撫でていく。女の子のからだとは違う、丸みも柔らかさもないからだだ。それでも奈津はどきどきした。 「……こういうの、やじゃない?」  海未の顔を見上げると、心配そうな顔をしていた。奈津に拒絶されるんじゃないかと不安げな海未に、庇護欲をそそられる。首を伸ばして、奈津は海未に触れるだけのキスをする。右手を海未のからだのラインに沿って撫でていき、Tシャツの裾から手のひらを差し入れた。温かな、海未の体温が直接伝わる。 「やじゃない」  海未のからだは本当に細かった。強く扱ったら壊れてしまいそうで、恐る恐る触れていく。平らな腹は何度撫でても平らなままで、見付けたへそに指先を突っ込んでみると、海未は「やだぁ」と身を捩った。 「奈津さん、くすぐったい」  くすくす笑いながら、海未が奈津からからだを離そうとする。奈津としてはこのまま逃がしたくない。「海未くんから言ったんでしょ」と、海未の薄いからだを抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!