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第17話

 そのまま海未とも別れて、奈津は大学の教室に向かった。いつもの、窓側の真中あたりの席に座る。席に着くなり溜め息が出た。  海未は「全然勝ち目なんてなかったんだ」と言っていたけれど、勝てなくても好きな気持ちはずっとあったのだ。王子さまは最初から決まっていて、代わりの王子さまなんてただの笑いものだ。  僕、何やってんだろ。  机に突っ伏してしまう。 「僕が、君の王子さまになってあげる」なんて、身の程を知らな過ぎた。奈津は有紀という人の代わりになんてなれない。海未に、奈津として見て欲しい。有紀の代わりに手を繋いだり、キスしたり、笑い合ったり、なんてできる気がしなかった。  結局奈津の王子さまは海未で、海未の王子さまは有紀で、有紀には別の大切な人がいる。報われない。  いっそ、泡になって消えたい。  からだは消えなくても、この気持ちだけでも溶かして、消してしまいたい。  夜の海に沈んだ海未もこんな気持ちだったのだろうか。  海未が言っていた「泡にすらなれないなんて、人間ってどうやって生きてけばいいの?」には、「僕もそう思うよ」としか答えられない。スイッチひとつで「好き」と「好きじゃない」が切り替えられたら、どんなに楽だろう。 「おはよー、『キープ』」  隣から声をかけられた。友人だ。 「おはよ、『キープ』って言うな」  奈津は机から顔も上げずに返事をする。その様子に、友人は何か察するところがあったらしい。 「何、遂に振られたの?」  痛いところを突いてくる。けれど実際は振られてすらいないのだ。奈津が勝手に好きになって、勝手に失望しただけだ。 「振られてない」  手を振って、「もうこの話はするな」とジェスチャーする。  海未に「君の本当の王子さまは誰?」と訊いてみたらはっきりするだろうか。でもそんなの、今朝の様子を見れば自明のことではないか。王子さまは最初から決まっていたのだ。と、思考は堂々巡りする。 「振られてないなら、可能性はあるじゃん」  ジェスチャーを無視して、友人が言う。 「可能性なんて、あるのかな」  海未のあんなにきらきらした顔を、奈津は今まで見たことがなかった。 「んー、俺はあると思うけど、二宮がしんどいんだったら、もう諦めたら?」  海未が有紀を見ていたときの目を忘れられない。さりげなく外された、繋いでいた手の意味を考えてしまう。  奈津はスマートフォンを手にとった。

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