22 / 30
第22話***
ほんのひと月前の話をする。
時刻は夕方の十七時過ぎた頃で、場所は有紀の部屋だ。専門書が本棚から溢れているけれど、きちんと整頓されていて、不潔な印象はない。まだ外は暗くないけれどカーテンを引いていて、灯りを点けている。
有紀はベッドに腰かけていて、開いた脚の間に海未がうずくまっている。有紀は海未の髪を撫でながら、「うん、上手になったね」と褒める。褒められた海未は嬉しそうに笑って、またちゅぷ、と勃ち上がっている有紀の性器を咥える。
「もうちょっと頑張ろうか」
そう言うと有紀は海未の頭を掴んで、無理矢理動かす。海未は「うぐっ」とか「げっ」とか何度もえずくけれど、有紀は気にしない。
「もうすぐあゆが帰ってくるからね」
海未の口からじゅぷ、じゅぷ、という水音と涎が零れる。「あ、ゆきさ、」と海未が声を上げるけれど、それを無視して海未の頭を押さえ込んだ。
「……全部飲んでね、海未くん」
息を吐くと、そう言って海未の頭を解放する。海未はひとつ頷いて、口から有紀の性器だけを吐き出すと、涙目のまま、こく、とのどを動かした。それを確認して、有紀は乱れた服を直す。
「海未くんはいい子だね」
ベッドに座り直して、もう一度有紀は海未の髪を撫でた。
「でも海未くんも変わってるよね。俺、いくら顔が可愛くても男のからだは抱けないかな」
まだ床にじかに座っている海未はちょっと困った顔で、へら、と笑った。この行為を誘ってきたのは有紀の方だ。有紀に誘われて、言われるがまま海未はした。好きな人からの誘いといえど、姉の彼氏だ。姉への罪悪感はあった。
姉に「彼氏です」と有紀を紹介されたときから、海未は有紀に一目惚れしてしまった。有紀は海未にも優しくしてくれた。たまたまふたりきりになったときに、「海未くんって、顔、可愛いよね」と頬を撫でられた。有紀にそう言われて、はじめて海未は自分の顔かたちに意識を向けた。「あゆとよく似てる」と有紀にも言われた。
それからも有紀は何かと海未を気にかけてくれた。だから有紀のお願いを聞くようになるまでに、そう時間はかからなかった。はじめは「顔、可愛いね。触っていい?」、「可愛いね、頭撫でてもいい?」だった。それがいつの間にかこんなことになってしまって、海未は姉に対して申し訳なさを感じる。ばれたらただじゃ済まない。
それはわかっていても、いざ目の前で有紀が「海未くん」と呼ぶと、逆らえないのだ。海未は姉が好きだし、けれど有紀に一目惚れしてしまった。これ以上のことにならないようにするには、家を出るしか思いつかなかった。
ともだちにシェアしよう!