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第23話
「海未くん?」
仰向けになった海未がぼんやりと天井を眺めて、ひと月前のことを思い出していたら、隣の奈津は心配になった。指先で額に貼りついた髪の毛を摘まむ。それが海未の記憶の中の有紀と重なった、なんて奈津は気付かない。奈津は海未をある種純粋だと思っているところがありそうだ。
「おれ、多分、奈津さんが思う程いい子じゃないよ」
奈津の知らないところで、海未は姉の恋人に手を出したし、このひと月の間に出会った「神」がみんな神様みたいに優しいとは限らなかった。
「どういうこと?」
奈津はわからない、という顔をする。
「軽蔑していいってこと」
へら、と海未は笑う。そこには諦観があった。奈津はちょっと考えてからまた、「どういうこと?」と訊いた。
「王子さまを思って泡なることを、潔く選べなかったってこと」
海未の比喩はいまいちわかりづらい。敢えてそう言っているんだろうな、とさすがに奈津も気付いた。あまりつつかれたくないことがあるのだろう。
「それ、全部、僕に会うためだって思っちゃ、だめ?」
あまりに奈津が夢のあることを真剣に言うので、海未は笑ってしまった。
「あは。おれ、そんなにきれいじゃないよ」
何をもってして、「きれい」と言うのだろう。
「きれい、って何」
奈津の問いに、海未は一言で答えた。「清廉潔白な生き方」
「少なくても、人に言えないことはしちゃだめだよね」
「ううん」と奈津は頭を捻った。
「つまり、海未くんは僕に言えないことをしたの?」
奈津の言葉に、海未は眉尻を下げて悲しそうな顔をした。「そう」
す、と海未が奈津から距離を置いた。それを奈津は追いかけて捕まえる。
「それだけ言えたら、もう懺悔したことにならない?」
海未の首に無理矢理腕を回して、強引に奈津の方に引き寄せる。
「僕から海未くんを奪わないでよ」
腕の中の海未に向って、奈津は懇願する。逆に海未は吃驚したようだ。
「おれが何したか、訊かないの?」
さすがに奈津も、海未がした神待ちがどういったものか全く知らないわけではなかったし、そこで何かあったことも想像できる。それに有紀が奈津に言ったことは海未には言えない。
「聞かない。僕も海未くんに言いたくないこともあるし」
そこはお互いさまじゃないだろうか。それに対して海未は、こてん、と首を傾げた。「そうなの?」
「そうなの。でも僕は海未くんの王子さまをしたいの。格好いいところだけ、見せたいの」
これには奈津も赤面した。腕の中の海未はくすくすと笑っている。
「どっちかって言うと、奈津さんは可愛い王子さまなんだけれどなあ」
「でも、今、ちょっとだけ格好よかった」と海未は奈津の耳元で囁いた。
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