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第151話 見えない糸3

「母さん……呆れてる。僕のこと、きっと、軽蔑してるんだ」 「うーん。そうかな。俺の目には叔母さん、君のことをすごく心配しているように見えたよ」 智也の言葉に、瑞希は目を見開いた。 「……ほんとに?」 「ああ。叔母さんね、きついこと言っていたけど、手を何度も握ったり閉じたりしていた。きっと君のことが心配で、やきもきしているんだね」 瑞希は大きな目をこぼれんばかりに見開いて、何か口をもごもごさせたが、すぐに力なく目を伏せると 「でもきっと、わかってくれない。僕の気持ちなんて」 智也は瑞希の肩を抱くようにして、ベッドの端に連れていき、一緒に腰をおろした。 「たしかに。簡単にはわかってもらえないだろうな。瑞希くん、君は叔母さんにとってたった一人の子どもだし、お父さんも早くに亡くなっているからね。叔母さんは君がゲイだと、あんな形で知ってしまったわけだから……なかなか受け入れるのは難しいよね」 瑞希は頭をこてんと肩に預けてきた。 「亨くんと、そういう関係になった時ね、僕、母さんに何回か……言おうとしたんだ。でもやっぱ、言えなかった。母さんをガッカリさせるってわかってたから。……智くんは……お母さんに、自分のこと、カミングアウトしてる?」 「いや。俺は誰にも言ってないよ。俺がそれを自覚したのは、もう家を出た後だったからね。それに……今さら自分からカミングアウトは……出来ないかな」 智也は自分の父母や兄たちの顔を思い浮かべた。 彼らが、自分の性的指向のことを知ったら……どんな反応をするだろうか。 父や母はおそらく驚くだろうが、家業に背を向け、成人して独立もしている末っ子の自分に、何か格別の期待をかけているとも思えない。 家を継いだ長兄とそのサポートをしている2番目の兄貴は、それぞれ妻子がいて家庭を築いている。兄貴たちも、知ったらかなり驚くだろうが、自分を蔑んだり距離を置いたりするような性格ではない。 だが、彼らには出来ることなら、知られたくはないな……と思う。 自分がまだ家にいた時も普通に仲の良い家族で、兄たちとは今でも機会があれば会って食事をしたり、年末年始には実家に顔を出している。だが、自分にとって彼らの存在は……ある種のコンプレックスなのだ。阻害されているわけでもないのに、智也自身が勝手にそう感じているだけなのだが……。 「僕も、出来れば母さんには、知られたくなかった。それもあんな嫌な形でなんて……酷いよ」 瑞希がぐすっと鼻をすする。 泣きたい気持ちはわかる。自分もそんなことになったら、きっと瑞希以上に落ち込むだろう。

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