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第150話 見えない糸2

「叔母さん、待ってください。それは瑞希くんが悪いわけじゃない」 叔母は、黙っててと言いたげに、ジロっとこちらを睨んだが、何も言わなかった。 瑞希の話だと、叔母がその写真の束を送り付けられて見てしまったのは、一昨日のことだ。 当然、動揺もしているだろうし、気持ちが落ち着くには時間も必要だろう。 「叔母さん。その件も含めて、瑞希くんとはじっくり話をするつもりです。亨くんのことで、瑞希くんだって混乱している。だから今はまだ、結論を出すのは待ってくれませんか?」 叔母は唇を噛み締め、そっぽを向いてしまった瑞希と自分を交互に見ると、深いため息をついた。 「……わかったわ。たしかに私にも、頭を冷やす時間が必要だわね。ただ、智也くん。君はいいの? 君だって気の抜けない仕事しているんでしょ? 瑞希のことに関わってる暇なんかあるの?」 智也はにっこり微笑んで 「大丈夫ですよ。もちろん、俺は独身だし仕事もしてるから、瑞希くんの世話を四六時中出来るわけじゃない。俺は俺の出来る範囲で、協力出来ることをするだけですから」 叔母は少し表情を和らげると 「そう。じゃあこの件は、智也君に任せる。面倒かけるけど、うちのバカ息子のこと、よろしくお願いね」 智也はほっとして頷いた。 「あ。じゃあ、瑞希君の荷物、これから運び出してもいいですか?」 「ええ、悪いけどお願い。瑞希。あんた知らんぷりしてないで、智也くんを自分の部屋に連れていって」 瑞希は母親の方は振り返らずに、のろのろと椅子から立ち上がり、リビングを出て行く。智也は叔母に会釈すると、瑞希の後を追いかけた。 階段をあがった所で、瑞希がぴたっと足を止めた。智也は危うくつんのめりそうになって 「わ。どうしたの、瑞希く」 「智くんっ」 瑞希がくるっと振り返って抱きついてきた。 「ごめんなさい」 「え? いや、どうして君が謝るの」 「言いにくいこと、言わせて、ごめんなさい」 「瑞希くん……」 智也は、瑞希の身体をぎゅっと抱き締めると 「君の部屋に行こう」 言いながら、身体を押すようにして歩き出した。こんな所では、リビングにいる叔母に聞こえてしまう。 部屋に入ると、智也はドアを閉めて、瑞希の身体を抱き締め直した。 「はい、いいよ。思いっきり泣いても」 瑞希は胸元からひょこっと顔をあげた。その目は既に真っ赤になって、涙が滲んでいる。 智也は瑞希の背中をあやすようにぽんぽんっと軽く叩くと 「叔母さんの言葉。今は真に受けないであげようね、瑞希くん。君と同じように、叔母さんだってすごく混乱しているんだよ」

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