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第157話 見えない糸9

「祥悟さん、違う。誤解で」 「瑞希くん、いいんだ。君は黙って」 祥悟に氷のような冷ややかな目で睨まれても怯まずに、尚も言い募ろうとする瑞希の腕を掴んで、智也は自分の後ろへと、彼を庇った。 祥悟は首を傾け片目を細めて、まるで挑発するような視線で、こちらを睨めあげてくる。 さっきスタジオで感じた、敵意にも似たキツい眼差し。 どうやら、今日の祥悟はすこぶる機嫌が悪いらしい。 気の進まないこの仕事に、やはり苛立っているのだろうか。 全身の毛を逆立てた猫のような威嚇に、心が萎縮していく。 こういう時の祥悟は、どこまでも残酷に、こちらの心を抉るような言葉を投げつけてくるのだ。その美しい唇と声で。 自分は、機嫌が悪い時の祥悟の悪い癖を知っているから平気だが、それを、何も知らない瑞希にぶつけられては堪らない。 「なにそれ」 祥悟の唇がうっすらと開き、囁くような呟きが飛び出した。 「祥。今日の撮影を瑞希くんに」 「はぁぁぁ……」 祥悟は不機嫌そうな大きなため息で、こちらの言葉を遮って 「なんなのさ、その態度。場所塞いでるからどけろって言っただけでそういうのって、失礼なんじゃねーの?」 「祥、違うよ。これは」 「馬鹿じゃねーの? 誰が来るかわかんないとこでさ、いちゃついてる方が悪いよね」 「祥悟さん、違う、僕っ」 前に出ようとする瑞希の身体を押さえる。 祥悟は、瑞希と自分を嘲笑うように見比べて 「あのさ。盛るんなら他でやれば? それとも人に見られるスリルが堪んないわけ? だったら俺が、見ててやろうか?」 祥悟がきゅーっと口角をあげて微笑んだ。 その笑顔は、さっきの冷ややかな威嚇とは別の意味で……怖い。 「祥。やめてくれ。邪魔だったなら謝るよ。今日はね、瑞希くんが君の撮影現場を見学したいっていうから、連れてきたんだよ。今、君の控え室に」 「で? こんなとこで抱き合ってたのかよ」 祥悟はくすくす笑うと、後ろにいる瑞希に視線を向けた。 「智也。おまえが今、同棲してる子ってそいつ?」 「……っ。ど、同棲って」 「社長が話してたんだよね。人付き合いあんま好きじゃないおまえがさ、珍しく可愛い男の子と一緒に暮らしてるって」 智也は驚いて目を見開いた。 情報の出どころは社長なのか。 確かに、親戚の子を預かっていると一応報告してはいたが、祥悟がそれを知っているとは意外だった。 基本、祥悟は社長と反りが合わないし、他人のそういう話に関心を示す男ではない。 「あ……ああ、一緒に暮らしてるのは本当だよ。祥、前に会わせたけどね、この子は瑞希くんだ。俺の」 「智くんって……おまえのこと呼んでたやつだよね」

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