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第158話 見えない糸10

祖父の家で瑞希に会わせた時、祥悟は意外なくらい瑞希のことを気に入っている様子だった。 一緒に食事しながら、ひどくご機嫌な顔でじゃれついていたのだ。 「ああ、そうだね、瑞希くんは俺の従兄弟なんだ」 「……は?」 瑞希に突っかかろうとしていた祥悟が、意外そうな顔でこちらを見た。 「いとこ……?」 「うん。前にもそう紹介したつもりなんだけど……覚えてないかい?」 祥悟はきょとんと目を丸くして、瑞希に視線を向けると 「……そうだっけ? んなのいちいち覚えてねーし」 瑞希が智也の身体を押しのけるようにして前に出た。 「あ。じゃあ改めて自己紹介しますね。僕、智くんの従兄弟の常葉瑞希です」 そう言って瑞希がぺこりと頭をさげると、祥悟はちらっとこちらを見て首を竦めた。 「……従兄弟かよ。恋人じゃなくて?」 「恋人なわけないだろう 俺は……」 「可愛い男の子と同棲って聞いたからさ、やっぱおまえって、ゲイなのかと思ってたし」 俺はゲイじゃないからね。 そう言おうとして一瞬躊躇した。その隙間に、祥悟の言葉が滑り込んでくる。 「……」 「なーんだ、そっか。つっまんねーの。同棲してんだったらさ、いろいろ突っ込んでやろうと思ってたのに」 「してませんよ、同棲なんて。ちょっと事情があって、僕が智くんのとこに居候させてもらってるだけなんです」 にこにこしながら言う瑞希に、祥悟の態度が一気に軟化した。 逆立てた毛も剥き出しになりかけた爪も引っ込めて、ちょっと気怠げないつもの彼に戻っている。 「おまえ高校生だっけ? そっか。親戚の子、預かっているってことかよ。ふーん。ま、いいや。ところでさ、ここでいつまでも喋ってんのも変じゃん。控え室、行く?」 「はい。あ……でも、祥悟さん、トイレは?」 祥悟はひょいっと首を竦めて 「別に用足しに来たわけじゃねーし」 そう言うと、くるっと踵を返してさっさとドアに向かう。智也は瑞希と目を合わせて、首を傾げた。 ……トイレしに来たわけじゃないって……。じゃあここにいったい何をしに……? 「智くん。行こう」 瑞希が腕を掴んで促してくる。智也は祥悟が先に外に出たのを確認してから、瑞希の耳元にそっと囁いた。 「さっきの話、瑞希くんは何も言っちゃダメだよ」 瑞希はこちらをじっと見上げて、ちょっと不満そうな顔をしたが 「うん。僕は余計なこと言わないよ。智くんが、ちゃんと自分で言わないと、だもん」 小さくため息をついて頷くと、先にドアの方へ向かう。 智也はその後ろ姿を見ながら、緊張に強ばっていた身体を弛緩させた。 ……なんだろう。すごく……疲れたな。 今にも飛びかかってきそうだった祥悟の機嫌が、何故急になおったのか……いまひとつよく分からない。 やっぱり瑞希の物怖じしない素直な性格のおかげだろうか。瑞希は意外と祥悟と相性がいいらしいから。

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