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第163話 見えない糸15

「そ。あいつがさ、自分じゃないとヤダってうるせーの」 アリサ……。 例の件で危うく大スキャンダルになりかけた相手だ。 智也は、勝気そうな彼女の顔を思い浮かべた。 彼女の嘘のせいで、祥悟は社長に殴られ顔に怪我をして、謹慎処分になっていたのだ。 あの件は彼女が祥悟の気を引くためについた嘘で、本人同士が話し合って解決済みだと聞いていた。だが、少なからず祥悟の仕事に悪い影響を及ぼしてしまった事件だ。 「アリサ……って、あの娘と……まだ付き合っているのかい? 祥」 ショックを受けている智也に気づかないのか、祥悟は包みを開けてマフィンを齧ると 「んー。まあ、付き合うっつーか、たまに会って遊んでるだけだけどな」 「あ、遊んでるって……君、あんなことがあったのに、懲りてないの? 彼女は、」 「まあ、あれは俺も悪かったし? そんな悪いやつじゃねえもん、アリサ」 けろっとして、お菓子を頬張る祥悟に、智也は絶句した。 話し合いで解決した時点で、彼女とは距離を置いているのだと思っていた。まさかまだ付き合いが続いていたなんて。しかも遊んでいるということは、祥悟は彼女と……そういう関係なのか。 「んー。このキャラメルとチョコのやつって、前はなかったよな? 今までで1番美味いかも」 無邪気に新作のマフィンに目を輝かせている祥悟が信じられない。 あの娘が……悪いやつじゃない? あんなことがあったのに? 下手をすれば、モデルとしては命取りになりかねない嘘をついてまで、祥悟を独占しようとした、あの娘の執着心は普通じゃない。 自分ならば、もう絶対に関わらないようにするだろう。それなのに…… 「なあ、智也、今度さ、新しくオープンした……」 「君は、バカなのか?!」 バンっとテーブルを叩いて立ち上がった智也に、祥悟は驚きに目を見開いた。 「どうしてあの娘とそんなっ。信じられないよ。君は本当に警戒心がなさすぎる!」 呆気に取られたようにぽかんと口を開けた祥悟が、すぐに我に返って眉をひそめた。 「……バカって、なんだよ?」 「バカはバカだよ。あの娘は危険だ。すぐに距離を置くべきだ」 言いながら、胸のムカつきが増してゆく。 祥悟の顔が、ますます険しくなったが、そんなこと構っていられない。 「おまえさ、それ、言い過ぎ」 「言い過ぎじゃない。どうして分からないんだ? あの娘はひとつ間違えたらモデルとして致命的になるようなスキャンダルに、君を巻き込もうとしたんだよ? どうして君がまだ彼女と関わりを持とうとするのか、俺にはまったく理解出来ない」

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