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第168話 見えない糸20
あの時こうすればよかった、なんていうのは結果論だ。渦中にいるその時に冷静に考えて行動出来るものならば、後悔という言葉は存在しない。
2人とも精一杯だったのだ。それは本当にどちらが悪いとか悪くないの問題じゃない。
智也は、ボロボロ零れ落ちる瑞希の涙をハンカチで拭いながら
「ねえ、瑞希くん。君のその気持ち、亨くんにはちゃんと伝わってるのかな?」
瑞希は智也の腕に顔を押し付けたまま、無言で首を振った。
「そうか。じゃあきっと彼は、誤解しているよね。君に騙された、裏切られた、そう思っているのかもしれない。だからおばさんに、君との思い出の写真を渡してしまったんだろうな」
ひぃぃっく、と瑞希がしゃくりあげる。
智也は瑞希の肩を優しくぽんぽんっと叩いた。
「さっきは事情が分からなくて反対してしまったけどね、もし彼が君の真意を確かめたくてストーカーみたいな状況になっているのなら、君は彼と話をした方がいいかもしれないな」
瑞希が震えながら顔をあげた。智也は微笑んで
「彼の気持ちが分からないから、一対一で会うのはダメだよ。だから、俺が一緒に行く」
「っ。と、智くん、僕……っ」
「君が彼のことを好きで、せめて誤解だけでも解きたいって思っているならね。どうだい?」
瑞希はくしゃっと顔を歪めた。
「ぼ、僕、あ、会いたい。亨、くんに、会って、話、したい……っでも、智くんにそんな迷惑」
「迷惑じゃないよ。君は、俺に、とても大切なことを教えてくれたからね。だから俺は、君の力になりたいんだ」
瑞希の涙に濡れた瞳が大きくなる。智也は少し苦笑して
「逃げていてもダメだ。想いは言葉にしないと伝わらない。君が教えてくれたことだよ。俺はどうにも上手く、それを行動に移せないでいるけどね」
「智くん……」
「俺のことより、今はまず君だ。一緒についていくよ。亨くんに会いに……行ってみるかい?」
瑞希の目からまた涙が溢れて零れ落ちた。
「……うん……僕、亨くんに、会いたい」
「よし。これからどうするかよく考えてみなくちゃね。亨くんの連絡先、君はまだ分かる?」
瑞希は智也のハンカチで涙を拭うと、
「たぶん……携帯電話が……まだ同じ番号なら」
智也は柱の時計を見た。
「今日はもう遅いかな?」
「この時間なら、まだ、大丈夫……だと思う」
「落ち着いて話が出来るかい?とりあえず、まず顔を洗っておいで。彼に連絡を取るにしても、慎重にやらないとね。じゃないとまた、こじれてしまうからね」
「うん。智くん……ありがとう」
涙を拭う瑞希の肩を、智也はもう一度優しく叩いた。
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