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第169話 見えない糸21
「…………」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が続く。
当然といえば当然だった。
この中で、唯一社交的な瑞希は俯いたまま喋らない。自分は気の利いたお喋りが出来る質ではない。そしてもう1人の男、谷崎亨《やざきとおる》はもともと寡黙な男だというだけでなく、今のこの状況で社交性を発揮出来るはずもなく……。
……ここは、やっぱり俺が何とかしないといけないよな。
瑞希の元カレ、谷崎亨の携帯電話番号は前のままだった。瑞希に電話をさせ、相手が本人だと確認出来るとすかさず、智也は電話をかわった。当事者同士でいきなり話をさせるより、第三者の自分が間に入った方がいいと思ったからだ。
亨はもちろん、この突然の自分の登場に警戒した。
呼びかけにも答えず、電話を切ってしまいそうになるのを何とか引き留めて、瑞希が会いたがっている旨を出来るだけ穏やかに伝えた。
亨は、通話が切れてしまったのではないかと思うほど長い沈黙の末、「瑞希が…会ってもいいって言ってるなら」と低い声でぼそっと答えた。
智也が日時と場所を打診すると、再び沈黙した後で「わかった」と返事をして、電話は切れた。
そうして迎えた約束の日が、今日なのだ。
智也は内心、この気の重い役割を引き受けてしまったことを後悔していた。
もし間に入るとしても、自分のような社交下手で話下手な人間じゃない方がよかったような気がする。でも今更それを言っても仕方ない。
智也はそっと深呼吸すると
「ええと…谷崎くん、だったよね。突然呼び出してしまってすまない。改めて自己紹介するよ。俺は瑞希くんの従兄弟の真名瀬智也と言います」
「…………」
亨は、男らしい少し太めの眉を少しだけ動かしただけで、切れ長の一重の目をじっとこちらに向けている。隣の瑞希は、もぞもぞと身じろぎしたが、やはり無言で俯いたままだった。
……うわ……。気まずい。
何からどう話をしようか、一応シュミレーションしてきたはずなのに、緊張のあまり全部吹っ飛んだ。
とりあえず、何か言わなくては……と身を乗り出した瞬間
「お待たせしました」
店員の明るい声が後ろから降ってきて、注文していた飲み物がテーブルに置かれる。3人分のオーダー品を置いて店員が去っていくと、智也はストローを手に取って
「あ。とりあえず、飲んで。瑞希くん、君も」
上擦りそうになりながら2人に勧め、自分の頼んだアイスコーヒーを1口飲んで、ふう……と小さく吐息を漏らした。
勢いを削がれて、またもや億劫になる。
……えーと。まず、何から話をするんだったかな。落ち着いて頭の中、整理しないと。
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