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第171話 見えない糸23

「違う!簡単に、なんかじゃないっ」 瑞希ががたんっと椅子を蹴立てて立ち上がる。まばらにいる店内の客たちが、何事かといっせいに見た。 「ね、瑞希くん、ちょっと落ち着いて」 「おまえは誰にでも好かれる。誰でも好きになる」 「違う……っ亨くん、僕は、」 「一緒にいても、いつも不安だった。おまえは、俺を見ていない。俺を通して、その先にいる誰かを見てる」 淡々と吐き出す亨の言葉に、瑞希はまた息を呑んで言葉を失くした。 亨は、瑞希から目を逸らすと、グラスを掴んで残りを一気に飲み干した。 「ねえ、谷崎くん。そんな風に一方的に決めつけないで、瑞希くんの話を聞いてやってくれないかな」 「俺はこいつの話を聞く必要なんかない」 「あるよ。君は誤解してる。いや、おそらくお互いに誤解し合ってるんだよ、君たちは。だからこうして会ってもらった。きちんと話し合う為にね」 智也の言葉を遮るように、亨はテーブルに音を立ててグラスを置いた。 「あんたに、何がわかる。余計な口を挟むな」 「うん。俺は君をよく知らないし、これは君たちの問題だ。でもね……君がまだ、瑞希くんのことを好きだというのは、わかったよ」 「なに?」 亨の顔が険しくなった。鋭い眼差しで睨みつけてくる。 「君が、瑞希くんを見る目つきでわかるよ。そして、瑞希くんも、まだ君のことが好きなんだ」 「やめろ!ふざけたことを言うな!」 「ふざけてなんかいない。俺が邪魔なら席を外すよ。お互いに素直な気持ちをぶつけた方がいい」 そう言って、腰を浮かしかけた智也の腕を、瑞希がぎゅっと掴んだ。 「待って、智くん、行かないでよ」 「瑞希くん。君は逃げないできちんと話をしなくちゃいけないだろう?俺がここにいたら、言いたいことも言えないよね」 「でもっ」 「あんたが席を外す必要はない。俺が帰る」 亨は唸るような低い声でそう言うと、そのまま立ち上がり、通路に向かって歩き出した。 「待って、谷崎くん。逃げるのかい?」 亨の足がぴたっと止まった。 「肝心なこと、君は何も言わないまま、逃げ出してしまうのかい?」 亨はくるっと振り返り、智也にずいっと歩み寄ると 「何を言ってる。あんたさっきから」 「怖いんだね。瑞希くんにはっきり拒絶されるのが怖いから、君は素直に向き合おうとしないんだな」 「なんだと?」 亨の逞しい腕が伸びてきて、襟を掴まれた。 「俺は逃げてなんかいない」 「やめて、亨くんっ」 首を締め上げられながら、智也は亨の顔を真っ直ぐに見上げた。瑞希が慌てて亨の手に縋り付く。 「ね、やめて、亨くん、お願いだから、」 「逃げてないならちゃんと話を聞けよ。瑞希くんは君に謝りたいと、必死の思いでここに来たんだ」 亨は少し目を見張り、瑞希に視線を向けた。 「謝りたい?……おまえが、俺に?」

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