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第177話 濡れて艷めく秋の日に4
ただでさえ動揺していたところに、突然の祥悟からのキスを受けて、智也の頭の中は真っ白になった。
何が起きているのか、このしっとりと柔らかい感触が教えてくれるのに、それと思考が上手く結びつかない。
「…ん……っふ」
祥悟の微かな吐息が鼻先をくすぐる。
ぞわぞわっと甘い痺れが背中を走り抜けて、智也は思わず縋りついてしまった彼のシャツの肩を、ぎゅっと握り締めた。
……ちょ、っと、待って。何、これ……
シャツを握り締めたまま、弱々しく押し返してみる。
そのわずかな抵抗すら許すまいというように、祥悟が首の後ろに回した手に力がこもる。
蠢く舌先で、強引に唇を割られた。歯列をなぞられ、上唇にちゅっと吸い付かれる。
「……っ」
智也は無意識に詰めていた息を吐き出すと、祥悟の細い肩に手を掛けた。
濡れた舌先が、ちろちろと唇を愛撫してくる。
こんな挑発的な悪戯に、抗う自制心なんかあるはずがない。
会いたくて、会いたくて、何度も夢に見たのだ。
もう吹っ切れたのだと自分に言い聞かせ、騙していたのは自分の心だけだった。それすらも、騙しきれるわけなんかなかったのに。
会いたくて、触れたくて、眼差しを、言葉を、心を、重ねたくて、本当は気が狂いそうだった。
ちゅぷちゅぷと微かな水音がする。
近すぎて焦点を結ばない祥悟の長い睫毛が、ふるると震えている。
智也は掴んだ肩をぐいっと引き寄せた。
祥悟が小さく息をのみ、ちゅぱっと唇を離す。
伏せていた睫毛が揺らめいて、ぱちっと開く。
智也ははっと息をのみ、目を見開いた。
濡れて揺らめく、祥悟の猫のような瞳。
夢で見たのよりも、何倍も美しく艶っぽい。
「祥……」
「喋んな。いいからもっと」
低い囁きに鋭く遮られ、唇に細い指先を押し当てられる。思わず口を開いて、その指先を舌で舐めた。
怒ったように細めていた祥悟の目が、一瞬大きくなり、楽しげに煌めいた。
口の端をきゅっとあげて満足そうに微笑むと、両手でこちらの顔を包み込んでくる。
「舌、出して?」
操られたように舌をべーっと差し出す。
祥悟の唇がすかさずそれを捕らえた。
柔らかい唇に舌を包まれる。ゆっくりと抜き差しされて、身体の奥が熱く疼いた。
……ああっ。もう……っ
こんなセックスみたいなキスをされて、いったい何を我慢する必要がある?
「祥っ」
「んあっ」
智也はがばっと彼の身体を抱き寄せて、その悪戯な口づけの主導権を強引に奪い取った。
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