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第178話 濡れて艷めく秋の日に5

「んっふぅ……んっん、んぅ」 祥悟の小さな頭を両の手で閉じ込めて、覆いかぶさりながら、深く深く蜜を吸う。 唇が重なるだけじゃ全然足りない。 互いの口を食べ合うように、深く、もっと深く舌を絡ませる。 背筋を、蕩けそうに甘い痺れが何度も走り抜けた。 ……ああ……熱い。頭が、沸騰する……っ 急激に上がった熱が身体中を駆け巡る。 息継ぎも出来ないような密着感に、のぼせたようになっていた。 でも苦しくはない。いや、むしろこの甘苦しさが震えるほど嬉しい。 ……祥。祥。祥っ どうして距離を置こうなんて思ったのだろう。 今まで生きてきて、こんなにもそばにいたい相手なんかいなかったのに。 あの出逢いの瞬間からずっと、囚われ続けてきた。 いつか別れの日が来るのなら、その瞬間まで、限られた時間を共に過ごさないなんて馬鹿げている。 「……っく」 「んっはぁ……っ」 背中に回った祥悟の手に力がこもる。少し苦しげに鼻から荒い息を漏らし、ギリギリと爪をたてる。 智也は噛み付くようなキスを少し緩めた。 重なる唇の間で、2人分の荒い呼吸が熱を放つ。 「だい、じょうぶ?、っ祥」 「なわけ、ねーじゃん。おまえ、がっつき過ぎ」 はあはあと酸素を取り込みながら、睨みあげてくる祥悟の目が涙で潤んでいた。 「っ、ごめん」 「謝るなっつの。誘ったの、俺じゃん」 言葉つきは荒いが、祥悟の声音が甘くて優しい。 そう感じるだけで、目の奥がじわっと熱くなって困った。 智也がそのまま離れようとすると、すかさず伸びてきた手が、頭の後ろをがしっと押さえた。 「も、おしまいかよ?」 「でも、祥、ここ」 祥悟は楽しげににぃーっと笑うと 「色気ねえよな。こんなとこでさ。でも、おまえが悪いんだぜ、智也。飯食うって誘おうとしてもさ、おまえ、俺のことずっと避けてたじゃん」 「っ」 ……え。誘おうとしてくれてたのかい?いや、俺が避けてるって気づいてたの? 智也が驚いて目を見張ると、祥悟はふんっと鼻を鳴らして 「そうやって、すぐすっとぼけんのな。ま、別にいいけど」 「祥、俺は、」 「で。キス、続けんの?それともこれから飯、食いに行く?」 智也は咄嗟に、祥悟の濡れて紅くなった唇を見つめてしまった。その視線に気づいた祥悟が、ふふっと噴き出し 「飯より俺の唇かよ?」 「あ。いやっ」 智也は焦って目を逸らすと 「食事、行くかい?」 「ん。俺、今日は朝からなんも食ってねーの。どっか美味いとこ、連れてってよ」 屈託なく笑う祥悟の顔が、懐かしくて眩しくて、智也はじわりと滲んでしまった涙を、瞬きで散らして頷いた。

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