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第183話 濡れて艷めく秋の日に10

無自覚な天使の残酷さに、智也はちょっとムッとして、顔の前でひらひらさせている祥悟の左手を払い除けた。フォークを差し出してきた右の手首を掴んで、ぐいっと引き寄せ 「いや、なんでもないよ」 フォークの先の肉にパクっと食いついた。 「お」 祥悟は一瞬びっくりしたように目を見張ったが、くすくすと笑い出し 「な?美味いだろ、そのソテー。香辛料が効いててさ」 「うん。美味いね。こっちのも食べてみるかい?」 こちらのプレートのメインは、ハーブのソースがかかった白身魚のソテーだ。 智也は一口大に切り分けてスプーンですくうと、祥悟の口の前に差し出した。 祥悟は楽しげににやにやしながら、躊躇いもなくパクっと口に入れる。 ……まったく……。 真っ昼間の陽射しの降り注ぐ明るい店内で、男2人が臆面もなく食べさせあいっこしてる図なんて……痛いにも程がある。 そっと周りを窺うと、案の定、窓際の老夫婦と隣の席の主婦2人連れが、唖然とした顔でこちらを見ていた。目が合うと皆、さっと顔を逸らしたが、おそらく彼らに食後の面白ネタを提供してしまったに違いない。 「あ。美味い。やっぱ俺、そっちの方が好きかも」 「だったら皿ごと交換するかい?」 祥悟はふふんっと鼻で笑って首を振り 「いい。半分ずつ食えばいいし。な、そのパスタもちょうだい?」 そう言って当然のように口をあーんとしてくる。 智也は内心ため息をつき、フォークに皿のパスタを巻き付けた。 相変わらず旺盛な食欲で、食後のデザートプレートも一人前には多すぎる量をぺろりと平らげ、祥悟は満足そうに紅茶を飲んでいる。 あの細い身体のどこにあんなに入るのだろうと、改めて感心してしまった。 痩せの大食いなのだ、祥悟は。 「今日はこの後、予定はあるのかい?」 聞きたいことは胸の中でとぐろを巻いてモヤモヤしていたが、蒸し返す勇気もなくて無難な質問をしてみた。 「別にないし。珍しく今日と明日はフリー。智也も休み?」 「うん。俺は今日はフリーかな。明日は夜に仕事が入ってるけどね」 「ふーん。じゃ、どっか行く?」 「何処に行きたい?」 祥悟はテーブルに肘をつき、うーん…と小首を傾げ 「……おまえん家?」 「え」 「あ。同棲してんだっけ、おまえ。んじゃさ、マンションじゃなくて、じいちゃん家は?」 「え、同棲って、誰が?」 智也が慌てて口を挟むと、祥悟は横目でチロっとこちらを見て 「おまえが。噂になってんじゃん。すげえ美人なんだろ?」

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