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第188話 濡れて艷めく秋の日に15

智也は自分を射抜くような祥悟の強い視線に、目を泳がせた。 ……聞いてくれるかい?祥。俺がずっと想ってきたのは、君だよ。俺は君のことを… 「し……祥。俺は、」 声が掠れる。胸が苦しい。心臓が飛び出そうなくらい、ドキドキとうるさい。 智也はカラカラになった喉を潤す為に、ゴクリと唾を飲み込むと、意を決して祥悟の目を真っ直ぐに見上げた。 「俺が、好きな人は」 すいっと手が伸びてきて、智也の唇に指先が押し当てられる。智也がはっと目を見張ると、祥悟は苦々しげに微笑んで 「やっぱいい。…悪い。そんな顔すんなって。ごめん、おまえ、言いたくねえよな」 「…っ」 祥悟はちっと舌打ちすると、何故か辛そうに顔を歪め目を逸らした。 「悪い。八つ当たりだ。無茶苦茶言って……ごめん」 「祥……?」 祥悟は、はぁぁ…っとやけに大きなため息をついて、ぎゅっと目を瞑った。その顔が見たこともないくらい辛そうで、智也は恐る恐る手を伸ばして祥悟の腕に触れる。 「祥、どうしたの?何か……あった?」 問いかけに、祥悟の目蓋がピクピク震え、ゆっくりと目を開ける。微妙に逸らしたまま、横目でちらっとこちらを見た。 ……っ。どうして、そんな目…… 智也が再び問いかけようとするより先に、祥悟は口の端を歪めて笑い 「俺もいろいろあってさ。……ここんとこずっと、荒れてたんだよね。おまえ優しいからさ、つい、八つ当たりした。ほんと……ごめん」 「祥……」 智也はそっと祥悟の頬に触れた。 なんだか泣きだしそうなこんな気弱な表情も、初めて見るかもしれない。 祥悟はバツが悪そうに視線をこちらに向けてきた。 「何が、あったの?俺に……話せることかい?」 祥悟はすかさず首を横に振りかけて戸惑い、悩ましげに首を傾げた。 「話せねえけど……聞いて欲しい気もするんだよね。なんかもう、よくわかんねえし」 言いながら身体を起こそうとする彼の腕を、掴んでぐいっと引き寄せる。祥悟は一瞬、驚いたように息を飲んだが、抵抗もせずにもたれこんできた。その細い身体を受け止め、柔らかく抱き締める。 「じゃあ、話したいことだけ、聞かせて?言いたくないことは、言わなくていいから」 耳元に囁くと、祥悟は少し強ばっていた身体の力をすっと抜いてくったりとなる。 そのまましばらく何も言わずに、智也は祥悟の身体の重みと温もりを感じていた。 何があったのだろう。 あんなせつない目をして。 そういえば、今日、事務所の洗面所で会った時から、祥悟は少し様子が違っていた。 意地を張って会わないでいる間に、祥悟のことが何もわからなくなっていた。以前なら、ほんの少しの変化でも、自分は気づいてあげられただろうに。

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