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第190話 濡れて艷めく秋の日に17
……いっそ無理やり抱いて壊してしまいたい。
これまで何度、そう思っただろう。
でも出来なかった。
祥悟が大切だから。
誰よりも幸せに、なって欲しい人だから。
同じなのだ。自分と祥悟の想いは。
ただ、向けている相手が……違うだけで。
「大切な人なんだね」
智也は、胸の痛みを堪えて、祥悟の柔らかい癖っ毛を優しく撫でた。祥悟はこちらの胸に頬を擦り寄せてきて
「ん……。あいつを泣かすのは、絶対に嫌だ」
「せめて君の気持ちを、打ち明けることは出来ないの?」
祥悟はゆっくりと首を横に振った。
「……そう。俺と、同じだね、祥」
祥悟が胸から顔をあげる。その目が少し潤んでいる気がして、智也は胸を締め付けられた。
「同じ……。おまえも言っちゃいけないんだ?それってさ、辛くねえ?」
「……辛いよ。とても、ね」
祥悟はじっとこちらの目を見つめてため息をついた。
「そっか。おまえもおんなじかよ。なんか……ダメダメだよな、俺ら。よりにもよってさ、絶対に好きになっちゃいけない相手、好きになっちまうなんてさ。他に人なんかいっぱいいるっつーの」
眉をさげ苦笑する祥悟に、智也もふふっと笑って
「そうだね。ダメダメだよね」
祥悟はくくく……っと喉を鳴らすと、がばっと起き上がった。
「さんきゅ。智也。おまえに言ったら少し、楽になったかも。独りで悶々としちゃってさ。暗いことばっか考えてたから」
「そう。……それならよかった」
自分を見下ろす祥悟の目から、さっきの苦しげな色は消えていた。ちょっと皮肉っぽく頬を歪めて笑ういつもの表情が戻ってきた。
「おまえっていいな、智也。やっぱすげえ和む」
君が好きだと告げたなら、この笑顔はもう見れなくなるかもしれない。初めて会った時から心惹かれた、この笑顔には、きっと会えなくなってしまうのだ。
智也は、チクチクと痛み続ける胸をそっと手で押さえて微笑んだ。
「ふふ。俺は君の精神安定剤かい?」
途端に祥悟が悪戯っぽく目を煌めかせた。
「んー。そうかも」
「お役に立てて何よりだな。さて、祥。ちょっとどけてくれるかい?そろそろ風呂の準備をしてくるから」
「ん」
祥悟は身軽に床に降りると、ソファーに座り直した。智也も立ち上がって、リビングを後にした。
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