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第191話 濡れて艷めく秋の日に18
祥悟をリビングに残してそそくさと風呂場に行くと、智也はシャワーノズルとスポンジを手に浴槽の前にしゃがみ込んだ。湯を出して洗剤を垂らしたスポンジで、端から丁寧にゴシゴシ磨いていく。
何も考えたくない。無心になりたい。
それなのに、考えても仕方のないことばかり頭に浮かんでしまう。
「祥……」
吐息混じりの自分の声が、ポトリと零れ落ちた。
それが風呂場の反響で思いがけず大きく響いて、堪えていた涙腺が一気にゆるむ。
頬を伝い落ちた涙が、ポトリ、ポトリと浴槽についた洗剤の滑らかで細かい泡に、小さな穴を開けていく。
「馬鹿だな…泣くなよ」
……分かっていたことだ。想いを打ち明けるなんて、無理だってことは。
もしかしたら……なんて、ちょっと期待してしまった自分が馬鹿なのだ。
最初にうっかり着けてしまったいい兄貴の仮面は、簡単には外させてもらえそうにない。
智也は袖口でぐいっと涙を拭うと、また一心不乱に浴槽を擦った。
浴槽を磨き終えてお湯を張っていると、脱衣場の方で物音がして、浴室のドアがガラリと開いた。
驚いて目を向けた智也に、ドアに寄りかかった祥悟がニヤリと笑う。
「どうしたの?」
「別に?もうお湯たまったか見に来ただけ」
「まだもうちょっとかかるよ。たまったら呼んであげ…」
「いい。もう入っちまうし」
「え?」
慌てて湯船に手を入れて、お湯の温度を確かめていた智也が振り返ると、シャツのボタンを外しながら中に入ってくる祥悟の姿が目に入った。
「え。入っちゃうって…」
「先にシャワーで身体洗うからさ、その間にたまるだろ」
ボタンを外し、前を肌蹴た祥悟の白い肌が、たちこめる湯気の向こうに見えて、智也はドキッとして目を逸らした。
「あ、じゃあ、俺は出てるから」
せっかちな祥悟の言葉に急かされ、智也は慌ててドアに向かう。その腕をぎゅっと掴まれた。
「いいから。おまえも一緒に入りゃいいじゃん」
「……っ」
……い……一緒に?!
「ここの風呂場っていいよね。だだっ広くてさ、すげえ開放感」
祥悟は口笛でも吹きそうなくらいご機嫌な様子で、するりとシャツを床に脱ぎ捨て、パンツのボタンを外し始める。
「ちょ、ちょっと、待って。シャツが。いやパンツも。君、着替え持ってないよね?脱ぐなら脱衣場で」
「どうせ洗濯するし?後でおまえの服、なんか貸してよ」
あたふたする智也に一向に構わず、祥悟はスルスルっとパンツを脱ぐと、あっという間に下着1枚になってしまった。
……ちょっ、と、待って。
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