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第191話 濡れて艷めく秋の日に19
泣いたことがバレないようにと顔を洗って、湯がたまるまで時間稼ぎをしていたのだ。
まさか一緒に風呂に入るなんて……聞いてない。
……ちょっと待ってよ、祥。
さっきとは別の意味で、涙が滲みそうだった。
とにかく一緒に風呂だなんて、そんなのは絶対に無理だ。
「祥。あ、じゃあ俺は着替えを用意して…」
「待てってば」
何とか側をすり抜けようとする智也のシャツを、祥悟がガシッと掴む。
「何それ?俺と一緒に風呂入んの、やなわけ?」
ぐいっと襟を引っ張られ、凄みのある目で睨まれて、智也は目をうろうろと泳がせた。
一向に頓着しない祥悟は、肌にぴったりした面積の狭い下着以外、何も身につけていないのだ。いきなりそんな眩しい肌を見せつけられても……目のやり場に困る。
「や。嫌、じゃ、ないけど、」
「そういや久しぶりだよな?智也と裸の付き合いすんのってさ。俺、おまえの身体って好きなんだよね。モデルとしては理想的じゃん?たまに雑誌で上半身脱いでるのは見てたけどさ」
祥悟はシャツを掴んだままシャワーの下に行くと、ノズルを壁のフックに掛けたままで、蛇口をひねる。2人の頭上から、まだぬるいお湯が勢いよく注ぎ落ちてきた。
「うわっ」
「わ。冷てえっ」
祥悟はくすくす笑って、シャワーのノズルに手を伸ばすと、フックから外してこちらに向けた。
「わぁっ、こら、祥っ」
顔面にモロにくらって、智也は慌てて手を伸ばすと、祥悟の手からノズルを取り上げた。
「もう…酷いよ、祥。びしょびしょじゃないか」
情けない声を出すと、祥悟はくすくす笑いながら
「だろ?だからー、おまえも脱いじゃえって」
「や、でも、」
「男同士じゃん。裸見せんのなんか構わねえし?」
……いや。君はかまわなくても、俺はかまうんだよ。
突然、何をやり出すかまったく予測のつかないこのやんちゃ坊主を、誰かなんとかして欲しい。
髪の毛からぽたぽた落ちる水が、中途半端にシャツを濡らして気持ち悪い。
「はぁ……まったく、もう」
智也は抵抗を諦めて、大きく吐息をつくと、祥悟にクルリと背を向けてシャツのボタンを外し始めた。
今日は事務所の社長に呼ばれて、もしかしたらスポンサーと食事会があるかもしれないと聞かされていた。食事会は先方の都合で別の日になったが、自前のスーツの中でも一番上質の物を着ていったのだ。シャツはともかく、ベルトとスラックスをこれ以上濡らされたらかなわない。
シャツのボタンを外し終えて、ちょっと躊躇ってから思いきって脱ぎ捨てた。ベルトのバックルに手をやると、横から手が伸びてきて
「手伝う?」
ドヤ顔の祥悟が顔を覗き込んできた。
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