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第195話 濡れて艷めく秋の日に22
人の気も知らないで、祥悟は今度はスポンジをたっぷり泡立て身体を洗い始めた。
智也はそれを横目でちろっと睨みながら、ちょっと情けない気分でトランクスに手をかけた。
これ以上グズグズしていると、変に意識してしまっているのが、かえってバレてしまう。
……男同士の裸の付き合い。そうだよ。一緒に風呂に入るだけなんだ。
心の中で自分に必死に言い聞かせる。
ゲイじゃない祥悟が、ゲイだと公言していない自分の狼狽えっぷりなど、分かるはずがないのだ。
智也は思い切ってトランクスを脱いだ。
……こそこそと祥悟に背を向けて。
……あ…しまった……タオル。
祥悟の分もハンドタオルを持ってこようと、棚から出して忘れてきた。
智也は脱いだ下着を手に、再びドアに向かう。
「おまえ、さっきからなにうろうろしてんのさ?」
「あ。タオルをね。君の分も…」
「俺、もう洗い終わったから取ってくる。おまえは髪洗えば?」
祥悟はつかつかと近づいてくると、智也の手から下着をひったくって、脱衣場の方へ出て行った。
智也は一瞬呆気に取られてドアを見つめてから、はっと我に返り、すごすごとシャワーの方へ歩き出した。
すれ違いざま、祥悟は間違いなく、自分の股間をちらっと覗き見していった。
……見られた。ああ……もう……。
恥ずかしくて顔がカーッと熱くなる。
智也は蛇口を捻ると、勢いよく注ぎ落ちるお湯を頭から浴びた。
祥悟が取ってきてくれたタオルをさり気なく腰に巻いて、髪の毛と身体をざっと洗った。
その間中、先に湯船に浸かった祥悟の視線を、背中からヒシヒシと感じていた。
まだ湯船に入っていないのに、のぼせてしまいそうだ。
シャワーを止めて、湯船の方を振り返る。祥悟はヘリに頬杖をついて小首を傾げ、こちらをじっと見つめていた。
「洗ったよ。そろそろ交代してくれるかい?」
「んー」
湯船に浸かっていた祥悟の顔は、少し上気していて、目元もとろんとして眠たそうだ。
智也が浴槽に近づくと、勢いをつけて立ち上がる。
やっとこの拷問のような時間から解放される……と思ったのに、祥悟は何故かそのまま浴槽の奥に行くと、壁にもたれ掛かるようにしてヘリに腰をおろした。
「え……」
「早く入れば?」
「君は、出ないのかい?」
「ん。ちょっとのぼせてきたからさ、クールダウンすんの」
ヘリに腰掛けちょうど目の位置にある窓の外を眺め始めた祥悟は、腰にタオルを巻いていない。
智也はまた目のやり場に困りながら、そっぽを向いて湯船に腰をおろした。
祖父のくれたこの家はかなり昔の造りで、家全体も各部屋の間取りも今どきにはないくらい広々している。祥悟の言った通り、この浴室はマンションの風呂場の倍以上の広さがあるのだ。だから湯船もかなり広いが、男2人が一緒に浸かるには、さすがにギリギリだった。
智也は祥悟からなるべく顔を背けて、湯船の中で手足を伸ばした。そのまましばらく窓の外を眺めて沈黙していた祥悟が、ぽつりと呟いた。
「智也もさ、片想いの相手忘れる為に、他の女抱いたり……する?」
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