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第197話 濡れて艷めく秋の日に24

頭を鈍器でガツンっと殴られたような衝撃だった。 祥悟が……男に、抱かれた? シンジラレナイ……。 これまで祥悟が、数々の女たちと浮き名を流していても、決して平気だったわけではないが、何とか耐えられた。それは、相手が女だったからだ。 祥悟がノンケだったから、最初から叶わぬ想いだと思い込むことが出来た。 でも……相手が男なら、話は別だ。 それは絶対に……耐えられない。 祥悟は足でお湯をバチャバチャさせながら 「寝た……っつーのかな。あれって。んー……」 「どこの、どいつ?」 「知らねえ。なんか最初に名刺くれちゃったけどさ。どっかいっちまったし?」 智也は、わなわなと震えながら、祥悟の両肩をガシッと掴んだ。 「祥、君って人は……っ」 「いって~。何だよ?なんでそんな怖い顔すんのさ」 「病気、とか、持ってたら、どうするの!そんな……そんな、素性も分からない、行きずりのっ」 肩を掴んで揺さぶると、祥悟は顔をしかめて 「痛いっつーの。だから一応、名刺貰ったじゃん。なんだかよく知らねえけど、どっかの会社の代表取締役とか、書いてあったし?」 「そっ、そういう、問題じゃ、ないだろっ」 「や。じゃあどういう問題だっつの。おまえが言ったんじゃん。素性も分からねえってさ」 不貞腐れたような顔をする祥悟に、智也は堪らなくなって、掴んだ肩をグイッと引き寄せた。 「うわっ」 ヘリに浅く腰掛けていただけの祥悟の身体が、バランスを失って倒れ込んでくる。それを受け止め、両腕でかき抱いた。 衝撃で風呂の湯がバッシャーンっと派手な音をたてる。 「ちょっ、ばっか、何すんだよ!危ねぇじゃんっ。ってか、目にお湯入っただろ!」 じたばたと暴れて悪態をつく彼を、ぎゅうっと強く抱き締めた。祥悟は身をよじり、腕の中から出ようともがいていたが、それをねじ伏せるようにして、更に腕の力を強める。 「智也っ、おいってば!苦しいって。離せよ!」 もがく祥悟を身体全体で押さえ込み、智也はその細いうなじに顔を埋めた。 分かってる。 祥悟が誰と何をしようと、それは彼の自由だ。 自分が口出ししていいことじゃない。 でも……でも嫌なのだ。 自分と同じ男が、祥悟を抱くなんて。 だったらどうして……自分は抱いてはいけない? こんなに……好きなのに。

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