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第198話 濡れて艷めく秋の日に25
「なあ、智也。離せって。苦しい」
祥悟の掠れた声に、智也ははっと我に返ると、締め付けていた腕をのろのろと解いた。
「ごめん。ちょっとびっくりしたから」
さっきまでの激しい感情が、急にガックリと抜け落ちた。息をするのも億劫なくらい、酷い脱力感だ。
「驚いただけ、かよ?おまえさ、すっげえ怒ってんだろ」
「いや。怒ってないよ。どうして、怒るの?」
「俺がバカやったから?」
ケロッとしている祥悟に、智也は深いため息を零すと
「自覚はあるのか。そうだね。そういう遊び方は、やめた方がいい。どんな相手か分からないのに、2人きりになるなんて……危険だよ」
心が虚ろなまま、正論だが意味のない言葉だけが勝手に滑り落ちていく。
なんだか酷くだるい。
「まあな。俺もさすがにヤバいかなーって、後から思ったんだよね。でもあん時は結構酔ってたしさ」
……酔ってた。だから抱かれたの?名前も知らない会ったばかりの男に。
「君はお酒、あまり強くないんだから」
「んー。反省はしてる。煮詰まり過ぎてたってさ」
……誰でもよかったの?男なら誰でも。だったら……俺ではダメだったのかい?
「ふふ。君の反省はアテにならないな。女じゃダメだから男にって、そういう発想、普通はしないよ」
「だから~。荒れてたんだっつーの。だいたい俺、抱く気満々だったんだぜ?抱かれる方とか想定外だし」
……想定外。そこがそもそも間違ってるんだよ。君は周りのゲイ寄りの男たちの視線に、気づいてないのかい?あんなにあからさまに、口説いてくるヤツもいるのに。
「男の子の抱き方、知ってたの?」
「ん?まあ、なんとなく?尻、使うんだぐらいはさ」
……その程度の知識で、ついていっちゃったのか。ああ……祥悟。君って人は……
「俺に言ってくれれば、よかったのに」
ポロリと、言葉が零れ落ちた。
まったく無意識に。
祥悟は上目遣いでこちらを見上げて
「は?おまえに?何をさ」
「あ……いや、いいんだ。なんでもないよ」
上に跨がっている祥悟が、伸び上がって顔を寄せてきた。そういえば、どさくさに紛れて、裸で抱き合っているのだ、祥悟と。
「おまえに言ったらさ、俺のこと、抱いた?」
下からじっと見つめられて、智也はそっと視線を外す。
つい、言ってしまった。バカなことを。
言うつもりは、なかったのに。
「無理だろ?だっておまえ、ゲイじゃねーし。それにさ、俺のこと、避けてたじゃん」
智也は、再び祥悟に目を向けた。
「無理じゃないって言ったら……君は俺に抱かれたの?」
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