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第202話 濡れて艷めく秋の日に29

「智也、おまえ暑苦しいって。続き、もうやんねーのかよ?」 祥悟が腕の中でもがく。 もちろん、続きどころではない。 酷い思いをして傷ついている祥悟に、そんなことはもう出来るわけがない。 智也は腕をゆるめて 「ごめん。俺がちゃんと側についてればよかった」 「ん?」 「君が無茶しないように、側にいるべきだったんだ。それなのに俺は、自分のことで精一杯で」 祥悟はんーっと首を傾げて 「別におまえのせいじゃねーし?あのさ、智也。さっきのナンパの話な」 「いいんだ。言いたくないなら無理には聞かないよ」 「や。ちげえって。おまえってさ、ほんと、人の話聞かねえよな」 祥悟は何故かくすくす笑い出すと 「あん時、怪我したのって俺じゃねえし」 「……え?」 顔を覗き込んだ智也に、祥悟はにやっと笑って 「その代表取締役さ、ついてったらなんか変だったんだよね。ホテル入るなりシャワー室で、自分でしてるとこまず見せろって言い出してさ」 「…え……ええっ?」 素っ頓狂な声をあげた智也に、祥悟はバツが悪そうに目を微妙に逸らすと 「やだっつったら、今度は鞄から変なもんいっぱい出してきてさ。革の紐とか鞭みてえなもんとか。で、デカいカメラまで出してきて、後で撮らせて欲しいって言い出すし」 「しょ、祥っ、君、」 祥悟は更に顔ごとそっぽを向くと 「猫なで声で、怖くないからとか言っちゃって、ベッドに連れてかれたけどな。さすがにやべえって思ってさ。しばらく好きにさせて様子見てたんだよね」 「祥……」 思わず涙声になった智也に、祥悟は叱られた子どものような顔でちらっと視線を投げてよこして 「そいつが風呂場に行った隙に、逃げようとしたんだ。したら気づかれちまって…無理やりベッドに連れ戻されそうになったから……」 祥悟はそこでいったん口をつぐみ、へへっと照れ笑いして 「そいつの股間、思いっきり蹴り上げて…逃げてきちまった」 ぺろっと舌を出す祥悟に、智也は気が抜けてへたりこみそうになった。 ……し…信じられない。君って人は…… 「ま。だからさ、俺の尻、まだ未開発ってわけ。身体はいろいろ触られたけどさ」 「ねえ祥、君、凪義って奴とはどうなの?」 「凪義?……ああ、あいつ?」 「そう。何回か彼の所に泊まったって言ったよね?」 「別に?泊まっただけ。ってか、なんでここであいつの名前が出てくんのさ?あ、そういやあいつってさ、すげえガタイいいじゃん?ゲイだって噂はマジだった。でも話聞いてたら、どうやら掘る方じゃねえみたいだな。なんつーの?ネコ?抱かれる方みたい」 智也はあんぐりと口を開け、長身のあの男の顔を思い浮かべて顔をしかめた。 「俺、そっちに興味なくはねえけど。さすがにあんな大男、抱く趣味ねえし?」 智也はくらりと目眩を感じて、祥悟の身体を弱々しく抱き寄せた。 安堵と驚きと。いろいろな感情が一気に押し寄せてきて、もう何をどう感じていいのかわからない。 ……祥……君って本当に……

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