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第204話 濡れて艷めく秋の日に31※
これ以上、お湯に全身浸かったままでは流石にのぼせてしまう。
智也は祥悟を抱き起こして湯船から出た。
そのまま手を引いて、シャワーの下に連れて行き、ノズルの向きを調整して蛇口をひねる。
何をするのかと訝しげにこちらの様子を窺っている祥悟を、壁際に背を向けてもたれさせた。
「っ。冷てえっ」
「ああ、ごめん」
シャワーのお湯が壁伝いに流れ落ちているが、まだ少し冷たかったらしい。智也はすかさず、壁と祥悟の背中の間に手を差し入れた。
「すぐ、温かくなるからね」
祥悟は上目遣いにこちらを見上げて、小首を傾げ
「おまえ……何か怒ってる?」
「まさか。どうしてそう思うんだい?」
言いながら屈み込み、ボディソープをたっぷりと手のひらに出した。
「や。別に?なんとなく、さ」
智也は身を起こすと、祥悟の肩を掴んで
「痛かったら言ってね」
腕を下に伸ばし、ボディソープをまとった手で祥悟のペニスをそっと握った。
「…ん…っ」
祥悟は小さく喘ぎ、唇をぎゅっと引き結ぶ。
智也はその熱芯の感触を手で確かめながら、ゆっくり優しく下から扱きあげた。
「どう?痛くない?」
「んー…んっんん…っ」
祥悟は口に自分の手の甲を当てながら、こくこくと頷いた。それを確認して、少しだけ手の力を強めてみる。
じわじわと上下に扱くと、壁に背をあてた彼の身体が、小刻みに揺れ始めた。
表情を窺ってみる。きゅっと瞑った目元をうっすらと染め、せつなげに眉を寄せている。
感じている祥悟の艶めいた美しさに、智也は見惚れながら、指を複雑に蠢かした。
さっきまでの興奮と動揺が、まるで憑き物が落ちたように消えていた。代わりに胸いっぱいに込み上げてくるのは、目の前の天使への愛おしさだ。
我ながら現金なものだが、祥悟が他の男のものになっていないことが、泣きたいほど嬉しい。
まだ高校生だった彼を、ずっと側にいて大切に見守ってきたのだ。
祥悟がゲイでないなら、それでもいい。
これからも出来るだけ側にいて、もしこんな風に触れさせてくれるのなら……彼が自らそう望むのなら、いつだってそれに応えてやりたい。
そう遠くはない未来に、自分は彼とは同じ道を歩めなくなるかもしれない。
期限付きの恋なのだ。
だったら、いられる限りは側にいて、このやんちゃで無鉄砲な天使を守ってやりたい。
「祥。キスしてもいいかい?」
そっと囁いてみると、祥悟は声を出すまいと手で押さえながら、ちろっと恨めしげに睨んできた。
「いちいち、…んぁ…っ聞くなっての」
ふうふう言いながら、自分の手で気持ちよくなってくれている彼が可愛いくて仕方ない。
智也は祥悟の手を口から外させると、ありったけの想いを込めて、その愛しい唇にキスを落とした。
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