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第207話 濡れて艷めく秋の日に34

身体の興奮が冷めると同時に、一気に実感がわいてきた。智也が内心オタオタしていると、胸の中の祥悟が顔をあげて 「なぁ。いつまでこうしてんの?」 「え?あ、ああ」 智也は慌てて手を隠すと、 「そうだね。湯冷めしてしまう。もう、出ようか」 祥悟はまだとろんとした目で頷いた。 「さ、いいよ。もう横になっても」 智也がそう言って振り返ると、貸してやったぶかぶかのトレーナーの袖をブラブラさせながら、祥悟は首を傾げて 「おまえもここで寝るんだよな?枕、1個しかねえけど?」 「え…っ」 祥悟の仕草と格好が可愛らしくて、思わず見とれていた智也は、はっと我に返って 「あ。いや、俺は自分の部屋に……」 祥悟の手が伸びてきて、腕を掴まれた。 「別々に寝る、とか、今更言うなよ?」 「や、でも」 反論しようとすると、途端に不機嫌な顔になった祥悟にギロっと睨まれた。 「ここのベッド広いじゃん。逃げんなっつーの。続き、しねえのかよ?」 ……つ……続き?……って。え? こちらの様子を冷ややかな目で見ていた祥悟が、大きなため息をついた。 「おまえってほんと、いちいちめんどくせえし。ま、いいや。寝る。智也、隣で寝ろよ」 祥悟はそう言って首を竦め、手を離してベッドにあがった。 トレーナーの下から伸びるスラリとした脚を無意識に目で追いながら、智也はまた動揺していた。 ……続き、って。さっきの?え、一緒に寝るのか? さっき、勢いで承知してしまったセックスの代わりに、手でしてそれでおしまいだと思っていた。その続きを……祥悟は期待しているのだろうか? ……うわ、どうしよう。だったらそう言ってよ。ほぐす準備とか、何もしてない。 この家にはそれ用のローションもオイルもないのだ。せめて風呂場で、祥悟の後ろを少し柔らかくしてあげるべきだった。 智也がウロウロと部屋の中を見回していると、被った布団をバサッとあげた祥悟が 「来いって。灯りも消せよ。眩しいし」 低い声でそう言い放つ。 これ以上ぐずぐずしていたら、どんどん機嫌が悪くなりそうだ。 「あ、ごめん、祥。ちょっと待っててくれるかい?居間の灯りも消してくるから」 「ん」 智也は部屋の灯りを絞ると、あたふたと部屋を飛び出した。その足で、急いでキッチンに向かう。 専用のローションはないが、オリーブ・オイルがあったはずだ。 キッチンの棚を開けて探しながら、ふと、前にもこんなことがあったのを思い出した。 あの時は、瑞希とそういう雰囲気になったのだ。 祥悟を忘れたい自分と、亨を忘れたい瑞希。 互いに相手をその代わりにしようとした。 行為の途中でオリーブオイルを取りに行った。 そして、祥悟からの留守電を聴いたのだ。 智也は棚から取り出したオリーブオイルの瓶を、じっと見つめた。

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