210 / 349

第210話 秋艶2

智也が現場に到着すると、早速トラブルが待ち受けていた。 「あっ、真名瀬くん。よかった、来てくれて。君は知らないかい?」 「おはようございます、城嶋さん。知らないって、何をですか?」 半年ほど前から祥悟のマネージャーをしている城嶋だ。いつもは物腰柔らかで穏やかな雰囲気の、たしか10歳ほど自分より歳上のベテランマネージャーだが、今は青ざめて少し取り乱している。 「祥悟くんだよ。どこに行ったか、知らないか?」 「ええ?いないんですか?一緒にスタジオ入りしたんじゃ…」 「そうなんだけどね。急にいなくなってしまって」 智也は顔をしかめてため息をついた。 祥悟のこの手の騒ぎは昔からある。城嶋がマネージャーになってからは、だいぶ大人しくなったと聞いていたが、また悪い病気が出たらしい。 「城嶋さん。ここに一緒に入ったのは間違いないんですね?」 「うん。関係者に挨拶をして回って、控え室までは一緒だったんだ。ちょっと目を離した隙に…」 智也は辺りをそっと見回すと、城嶋に歩み寄った。 「とりあえず祥の控え室の場所、教えて貰えますか?」 「あ。ああ」 「祥がいないこと、他の人には…?」 「いや。まだ言ってない。ただ、あと30分ほどでスポンサーが到着するから、社長にこれから指示を仰ごうと思っていた」 智也は頷くと 「分かりました。じゃあちょっとだけ、待ってください。俺が心当たり、探してみますから」 城嶋は少し不安そうに眉を顰めたが、すぐに渋々頷いて 「心当たり、あるのかな」 「ええ。おそらく。少し時間をくだされば」 「分かったよ。君に任せる。僕も出来るだけ騒ぎにはしたくないからね」 智也は無言で頷くと、城嶋に控え室の場所を聞いてから、踵を返してスタジオからそっと抜け出した。 このスタジオには、以前何回か撮影で来ている。 彼が向かった先の見当はついていた。 智也は廊下でいったん立ち止まり、首を傾げて少し考えてから、心当たりのうちのある場所に向かった。 「やっぱり、ここかい」 智也がそっと近づいて声を掛けると、貯水タンクの脇の小さな階段に腰を下ろしていた祥悟が、ひょいと顔をあげた。 「おまえ、来んの遅い」 まるで自分がここに来るのは当たり前だというような彼の態度に、智也は苦笑した。 「城嶋さんが探しているよ」 「知ってる」 「どうしたの?体調、よくない?」 祥悟はぷいっと顔を背け、空を見上げた。 このところどんよりした天気が続いていたが、今日は珍しく秋晴れの綺麗な青空が広がっている。 「別に。ちょっと寝不足なだけ」 「そう」 智也は祥悟の隣に少し間を開けて腰をおろした。 「じゃあ、何か気に入らないことでも、あったのかい?」 祥悟はそっぽを向いたまま、答えない。

ともだちにシェアしよう!