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第210話 秋艶2
智也が現場に到着すると、早速トラブルが待ち受けていた。
「あっ、真名瀬くん。よかった、来てくれて。君は知らないかい?」
「おはようございます、城嶋さん。知らないって、何をですか?」
半年ほど前から祥悟のマネージャーをしている城嶋だ。いつもは物腰柔らかで穏やかな雰囲気の、たしか10歳ほど自分より歳上のベテランマネージャーだが、今は青ざめて少し取り乱している。
「祥悟くんだよ。どこに行ったか、知らないか?」
「ええ?いないんですか?一緒にスタジオ入りしたんじゃ…」
「そうなんだけどね。急にいなくなってしまって」
智也は顔をしかめてため息をついた。
祥悟のこの手の騒ぎは昔からある。城嶋がマネージャーになってからは、だいぶ大人しくなったと聞いていたが、また悪い病気が出たらしい。
「城嶋さん。ここに一緒に入ったのは間違いないんですね?」
「うん。関係者に挨拶をして回って、控え室までは一緒だったんだ。ちょっと目を離した隙に…」
智也は辺りをそっと見回すと、城嶋に歩み寄った。
「とりあえず祥の控え室の場所、教えて貰えますか?」
「あ。ああ」
「祥がいないこと、他の人には…?」
「いや。まだ言ってない。ただ、あと30分ほどでスポンサーが到着するから、社長にこれから指示を仰ごうと思っていた」
智也は頷くと
「分かりました。じゃあちょっとだけ、待ってください。俺が心当たり、探してみますから」
城嶋は少し不安そうに眉を顰めたが、すぐに渋々頷いて
「心当たり、あるのかな」
「ええ。おそらく。少し時間をくだされば」
「分かったよ。君に任せる。僕も出来るだけ騒ぎにはしたくないからね」
智也は無言で頷くと、城嶋に控え室の場所を聞いてから、踵を返してスタジオからそっと抜け出した。
このスタジオには、以前何回か撮影で来ている。
彼が向かった先の見当はついていた。
智也は廊下でいったん立ち止まり、首を傾げて少し考えてから、心当たりのうちのある場所に向かった。
「やっぱり、ここかい」
智也がそっと近づいて声を掛けると、貯水タンクの脇の小さな階段に腰を下ろしていた祥悟が、ひょいと顔をあげた。
「おまえ、来んの遅い」
まるで自分がここに来るのは当たり前だというような彼の態度に、智也は苦笑した。
「城嶋さんが探しているよ」
「知ってる」
「どうしたの?体調、よくない?」
祥悟はぷいっと顔を背け、空を見上げた。
このところどんよりした天気が続いていたが、今日は珍しく秋晴れの綺麗な青空が広がっている。
「別に。ちょっと寝不足なだけ」
「そう」
智也は祥悟の隣に少し間を開けて腰をおろした。
「じゃあ、何か気に入らないことでも、あったのかい?」
祥悟はそっぽを向いたまま、答えない。
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