213 / 349

第213話 秋艶5

「お。それ、プーシャのエクレアロールじゃん」 早速包みを開けて箱の中を覗き込んだ祥悟が、嬉しそうな声をあげた。 どうやら彼好みの差し入れだったらしい。 智也は箱からひとつ包みを取り出すと、祥悟に差し出した。それを受け取り食べ始めた祥悟の顔から、仕事モードのクールさは消えていた。 智也はほっとして、箱をテーブルの上に置くと 「祥、酷いよ。さっき嘘言っただろう」 「ん?」 「俺が脱ぐかもしれないって。そんな話、まったく出なかったよね」 祥悟は口の端についたチョコレートを指先で拭いながら、とぼけたように目線を逸らした。 「そんなこと、俺、言ったっけ?」 「言ったよ。そのせいで余計に緊張したんじゃないか」 祥悟は大きく口を開けて、またひとくち頬張ると、口をもぐもぐさせながら 「覚えてねえし。つかおまえ、緊張してたんだ?」 「君と違って、こういう大掛かりな仕事には、俺は慣れてないからね」 「ふーん。でもすぐ慣れるだろ。プロモもあるからさ、撮影しばらく続くみたいだし?」 「ねえ、祥。あの監督、結構仕事で絡むのかい?」 「監督?あー。徳武さん?そういや最近ちょくちょくな。なんか俺のこと気に言ってくれてるみたいでさ、ご指名も結構あるらしいけど」 「……そう」 智也はちょっと眉を顰めた。テスト撮影の間中、あの男は祥悟にやたらとボディタッチしていたように感じた。自分は直接、仕事の絡みはないが、ゲイ寄りのバイだという噂は耳にしている。 「なにおまえ、もしかして噂聞いてんの?」 「え。知ってるのかい?祥」 「うん。一度誘われたし?断ったけどさ」 あっさりと答える祥悟に、智也がやっぱりか…と内心ため息をついた。 「気をつけた方がいいね。仕事をたてに何か言ってくるかもしれないし」 「別に相手にしねえもん。タイプじゃねーし」 祥悟は大きなエクレアロールをペロっと平らげると、指についたチョコレートやクリームをぺろぺろと舌で舐めて 「俺のことよりさ、おまえはどうなんだよ?」 「え……?」 祥悟は眉をきゅっと寄せて、にじり寄ってきた。薄いパンツ一枚の彼の太股が、ぴったりとこちらの腿にくっつく。 「おまえこそさ、気をつけた方がいいよね」 「俺?それ、どういう意味だい?」 祥悟は下から顔を覗き込んでくる。距離が近くてドキドキした。 「気づいてねえの?それともさ、とぼけてんのかよ?」 やっぱり近すぎる。彼のつけているオーデトワレの少し甘い香りが鼻を擽った。

ともだちにシェアしよう!