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第214話 秋艶6

「や。とぼけるって。俺は何も」 祥悟は太腿だけでなく、肩もぴたっと合わせてきた。 「マネージャー」 「……え」 「あいつゲイじゃん」 ……マネージャー……? 智也は呆気に取られながら、自分のマネージャーの顔を思い浮かべた。 彼は既婚者だ。つい先日、2番目の子どもが産まれたばかりで……。 「いや、彼は違うだろう。だって既婚者だよ」 今度は祥悟が虚を突かれたような顔になる。 「は?おまえ、何言ってんの?あいつ、結婚なんか…」 言いかけた祥悟が、唐突に口を噤んだ。 「第一、俺を狙ってる男なんていないよ、君じゃないんだからそんなにモテないしね」 智也がくくくっと笑うと、祥悟は何故か怪訝そうに眉を顰め 「ふーん。とぼけてんじゃないのか。でも気づいてねえとかありえねえし」 ぼそぼそと呟く彼の言葉が、はっきり聞き取れない。 「え?なんて言ったの?」 「や。なんでもねえ。おまえが天然だって言っただけ。な、おまえ、これ食わねえの?」 「あー…うん。俺はいらないよ。君が食べて」 祥悟はまだ何か言いたげにこちらを見ながら、包みをもうひとつ箱から取り出す。 「俺は脱ぐ予定はないみたいだけど、どうやら君の方は露出が多いね。プロモとポスターの方、全裸の撮影もあったよね」 「まぁな。下着の仕事なのに服着込んでても仕方ねえだろ。たださ、どうして俺なのかがやっぱり謎だし。おんなじ顔なんだから最初の予定通り、里沙でよかったんじゃねえの?これ」 智也は、飲んでいたミネラルウォーターのボトルをテーブルに置いた。 「やっぱりこれって、里沙さんだったのかい?」 「そ。最初の話だとな」 「じゃあ、彼女が断ったのかな?」 祥悟は瞬く間にもうひとつも食べて、最後のひとくちを口に放り込むと 「わっかんね。ま、露出多いから避けたのかもな」 「今回の企画、ターゲットは女性だけじゃないからね。里沙さんはどちらかというと胸も大きめだから、コンセプトに合わないかもしれないな」 肩にもたれかかっていた祥悟が、急に身を引いた。視線を感じて目を向けると、すごく嫌そうな顔をしている。 「え…。俺、なんかおかしなこと、言ったかい?」 「おまえもやっぱ男なんだな。里沙の胸がデカいのとか、気になるのかよ?」 祥悟の言葉に、智也は目を見開いた。 いやいや。そんなつもりじゃない。 あくまでも仕事仲間として、モデルの彼女の体型の特徴を言っただけだ。 ……あ、そうか。 祥悟は里沙の弟なのだ。自分の姉の胸の大きさの話なんか、聞きたくなかったのかもしれない。

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