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第218話 秋艶10
スタジオに戻ると、スタッフミーティングで決まった変更箇所の確認をひとつひとつ消化していって、その日の全行程は終了になった。
今回の企画はドラマの人気から急遽派生したものだ。当然、スケジュールはかなりタイトだった。
智也のスケジュールはそれほどでもないが、特に祥悟は、既に動いている他の何本もの仕事の合間を縫っての撮影となる為、ここが終わってもすぐに次の現場に向かわなければいけない。
マネージャーに促されて慌ただしくスタジオを後にした彼に、挨拶をしている余裕もなかった。
智也は着替えを済ませた後も、控え室でちょっとぼんやりしていた。
まるで嵐のように過ぎ去っていった時間を、ゆっくりと反芻する。
数ヶ月、祥悟の傍から離れていたせいで、こんな感覚はすっかり忘れていた。
朝からドキドキと落ち着かず、会えば彼のペースに振り回されっぱなしで、ほんの数時間だったのにくたびれ果ててしまった。
でもこんな感覚も、実は嬉しくて仕方ないのだ。
……可愛かったな……。
智也はテーブルに置いたままの差し入れの箱に目をやった。
子どもっぽい仕草でお菓子をパクついていた祥悟。
そして、一転して大人びた表情で、キスの続きをねだってきた祥悟。
何よりも愛おしく感じたのは、キスの後に見せてくれた照れたような笑顔と最後にくれた言葉。
他の誰にも、ああいう気弱な所は見せない彼が、自分にだけ甘えて魅せてくれた姿。
智也は思わずにやけてしまった頬を、両手でそっと擦った。
次の祥悟との撮影を翌日に控えた夜。
そろそろ寝ようかと洗面所に向かった時、玄関のベルが鳴った。
……?…こんな時間に……誰だろう。
このマンションの場所を、自分の親族以外に知っている人間は、事務所でもごくわずかだ。
こんな夜遅くに、アポもなしにやって来る相手は、限られている。
……もしかして……?
祥悟かもしれない。
智也は急いで玄関に向かうと、ロックは外さずにドアスコープを覗いた。だが、外に立っていたのは……
……違う。祥じゃない。あれは……?
智也はゆっくりとロックを外して、ドアを開けた。
「ああ。こんばんは。夜分遅くに申し訳ない」
そう言って、首を竦めて微笑んだのは、祥悟のマネージャーの城嶋だった。
「こんばんは。城嶋さん。どうしたんですか?何か……トラブルでも?」
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