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第219話 秋艶11

「すまないな。こんな時間に。もう寝るつもりだったんだね」 とりあえず居間に城嶋を通して、何か飲み物をとキッチンに向かう智也に、城嶋が遠慮がちに話しかけてきた。智也は部屋着姿の自分を見下ろして 「ああ……いえ。いつもはもう少し遅いんですが、明日は撮影があるので早めに寝ようかと思って。あ……城嶋さん、紅茶でいいですか?それとも何かアルコールでも?」 「いや、おかまいなく。実は一緒に飲もうとこれを持ってきたんだが……そうだったね、明日は君も撮影だった」 智也がキッチンから振り返ると、城嶋はワインの入った袋を持ち上げていた。 智也はちょっと目を丸くして 「珍しいですね。あなたがそういう理由でここを訪ねて来られるなんて。いいですよ、少しならお付き合いします。俺、酒はザルなんです」 智也は開けかけていた紅茶の缶の蓋を閉じると、ワイングラスを2つ持って、キッチンからダイニングに戻った。 城嶋の斜め脇に立って、袋を受け取りワインを取り出す。 智也がワインの栓を抜いている間、城嶋は黙ってこちらの手元を見ていた。 城嶋がこのマンションに来たのは初めてではない。1年ほど前、城嶋が他の事務所からヘッドハンティングで移って来た時、社長と一緒にここに来ているのだ。律儀にも手土産持参で。 だが、プライベートで親しく付き合うような間柄ではないから、恐らくは何か事務所では言いにくい話を持ってきたのだろうか。 ワインの栓を抜いてグラスに注ぐと、城嶋の前に置いて自分のグラスにも赤い液体を注ぐ。そのまま、斜め脇の椅子に腰をおろした。 「お疲れさまです」 智也がそう言って自分のグラスを軽く持ち上げると、城嶋もグラスを掴んで持ち上げ 「ああ。ありがとう。君も、お疲れさま」 智也はひとくち飲んでグラスをテーブルに置いた。 「それで……お話って何ですか?社長から、何か?」 穏やかに切り出すと、城嶋もグラスをテーブルに置き 「いや。社長は関係ないかな。私が君に、個人的に少し聞きたいことがあってね」 智也は驚いて、城嶋の顔をまじまじと見つめた。 「……個人的に?あなたが……俺に、ですか?」 城嶋は途端に苦笑してみせ 「ちょっと唐突だったかな。いや、個人的にと言っても、橘…祥悟くんのことで、なんだけどね」 ああ……と、智也はようやく腑に落ちて頷いた。 てっきり自分の進退のことで、社長から何か言われてきたのかと思っていたが、そっちの話か。 そういえば撮影初日に、控え室で祥悟とキスをしているところを、城嶋に目撃されたのだった。 あれから今日まで数日間、自分は祥悟にも城嶋にも会っていない。 マネージャーとしては、自分の担当の中でも一番売れっ子の祥悟の、下手をすればスキャンダルになりかねないようなネタは、気になって当然だろう。

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